準備(全3話)
準備①
PM 8:45
BAR ヤリーカ
カウンター席に並んで座る
避山「ポコポコの戦闘スタイルの模倣……お前が持つ大量の邪気を応用した最強の戦い方だ。できそうか?」
リク「邪気を操ってミサイルの軌道を逸らしてるのか。少し練習すればできると思う」
避山「お前ならジェネリックポコポコになれるだろうぜ」
リク「なんか嫌だなその呼ばれ方。ポコポコの代替品みたいじゃないですか」
避山「……悪かったよ。もうこの世にポコポコはいない。お前こそがオリジナルだ」
リク「冗談ですよ。たしかにポコポコは邪気の使い方の良い手本だと思う。コイツの戦い方を再現できれば、ハルミと水鉄砲学生にリベンジできそうだ」
避山「頼むぜ。お前の成長性こそがヤツらに対抗する鍵だ」
リクは椅子から降り、入口の扉をすり抜けて店を後にする。避山はグラスの中の牛乳を飲み干した。
避山「マスター!おかわり!グラスに表面張力ができるくらい並々と注いでくれ!」
嫌そうな顔で紙パックからグラスに牛乳を注ぐ男性マスター。
マスター「……前から気になってたこと、聞いてもいいですか?」
避山「何よ?」
マスター「避山さんだけでも殺し屋の幽霊集団を組織できたんじゃないですか?仲間を集めているのも、管理しているのも避山さんなんでしょ?なら
避山「……俺は見るからに冴えないおっさん。こんなのがトップの組織に魅力を感じるヤツはいないだろ?一方で向風先輩は、昔から大物っぽい雰囲気だけはある人だった。堂々としてるあの人の存在が、組織としての権威付けになってるのよ」
グラスを机に置いたまま口を近づけてすする避山。
避山「それから、幽霊を勧誘するときは向風先輩のことをめっちゃ盛って話す。スーパー超人の下で働けると思ってもらえるように。でも仲間になった後は向風先輩の仕事ぶりは一切見せず、俺が間に入る。話を盛ったのがバレちまうからな」
マスター「そこまでして向風さんをトップにしたいアナタの気持ちがわかりかねます」
避山「ああ、理解できなくて当然だ。理屈じゃない。俺のわがままなんだから」
マスター「わがまま?」
避山「向風先輩と俺は大学のサークルで出会った。向風先輩が立ち上げたサークルで、俺が副会長」
マスター「何サークルだったんですか?」
避山「表向きはテニスサークルだが、実際はヤクザの依頼で殺しをしてた。だから
マスター「今で言う闇バイトみたいなものですか。学生の頃から物騒なことやってたんですね」
避山「まぁね。でも楽しかった。向風先輩は下のヤツらに好き勝手やらせてくれたんだ。『会長としての威厳がねぇ』って舐める後輩もいたんだが、ソイツらがドジッたときにケツを拭いてくれたのはいつも向風先輩だったんだよ」
マスター「へぇ」
避山「俺としても、あの人は頼もしい存在だった。でも卒業してからはみんなバラバラの進路を選んで、俺も向風先輩と疎遠になった」
マスター「あれ?たしか、避山さんから向風さんに声をかけたんですよね?」
避山「そう。俺は交通事故で死んで幽霊になり、第二の人生が始まった。積み上げてきたものが全て崩れたが、もう一度積み上げられる絶好のチャンス。そんなとき思ったんだ、もう一回大学のサークル時代に戻りたいなって。楽しかったあの時代をやり直したいなって」
マスター「……」
避山「で、向風先輩に話を持ちかけたら乗ってくれた。いや、殺し屋として廃業して いた先輩が乗りたくなるよう俺が計画し、話を組み立てた。でも俺がトップじゃダメなんだ。向風先輩がリーダーをやってる組織じゃないと大学時代に戻れない」
マスター「……つまり避山さんが思い出に浸りながら殺しをやりまくり、失敗したときの尻拭いをさせるために向風さんを誘ったと?向風さんも、お仲間たちも、アナタのわがままに付き合わされてる可哀想な幽霊ということですか?」
避山「言い方が悪いなぁマスター。俺は純粋に、向風先輩との青春時代をもう一度楽しみたいだけさ」
グラスの牛乳を飲み干した避山は椅子から降りる。
避山「仲間たちについては、おっしゃるとおりだな。向風先輩が、『俺の理想とする組織のリーダー』であるためのお飾りに過ぎなかったよ」
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