精神感応③

騒ぎを聞きつけた男性駅員2名が昌爺まさじいの背後から駆け寄る。昌爺は振り返り駅員の胴体を切り裂くと、ナガンのほうに向き直った。



昌爺「邪魔者についてはお気になさらず。現れ次第、拙者が斬り伏せますので。戦いに集中してくだされ」


ナガン「この雑踏の中、死角から迫る駅員を斬った……勘も良いみたいね」



手の中で妖刀・乳房ちちふさが振動するのを感じるナガン。乳房に宿った悪霊の魂は、人ならざる怪異が近づくと武者震いを起こす。目の前の老爺が生きた人間でないことをナガンは悟った。


ナガンは右手で乳房のつかを握り、昌爺に接近しながら振り抜く。右斜め下から昌爺を狙ったナガンの斬撃は、いとも容易く受け止められた。


今後は左斜め上から斬りかかるが、やはり仕込み杖に止められてしまう。どの角度からの斬撃も、昌爺に予知されているかのように対処された。


動揺するナガンの隙を突き、反撃する昌爺。とっさに後退したナガンだが、左二の腕を浅く斬られた。



昌爺「中学生とは思えぬ素晴らしい腕前です」


ナガン「……そうか、田代たしろ先生の師匠だから、先生の技術がベースになっている私の剣術を全て読めるのか」


昌爺「たしかに貴殿の太刀筋は田代のソレに近く、予想しやすい。しかし拙者が行っているのは『予想』などという曖昧なものではなく、明確な未来を察知する『予知』です」


ナガン「シゲミさんの連絡にあった、敵たちが持ってる力……幽霊になると特殊な力に目覚めることがあるんだっけ?」


昌爺「左様。拙者の力は『精神感応テレパシー』。一定距離内にいる人間と拙者の思考をつなげる能力。今、貴殿と拙者の思考はつながっており、貴殿の頭の中は全て拙者に筒抜けです」


ナガン「えぇ!?キモォッ!じゃあ私が脳内で執筆してた夢小説も!?」


昌爺「ええ。先ほど読ませていただきました。何が面白いのか理解に苦しみましたが」


ナガン「マジキモォォォッ!!」


昌爺「そんなことより、戦況を気にしたほうが良いでしょう。貴殿がどの角度から、どれくらいの力で攻撃してくるのか、拙者には手に取るようにわかるのです。貴殿の攻撃は全て見切られていると思ってください」


ナガン「人のプライバシーに土足で入り込みやがってぇ!やっぱり変態ジジイじゃないかぁぁっ!」



ナガンは乳房を両手で握り、頭上から振り下ろすが、昌爺の仕込み杖で受け止められてしまう。



昌爺「怒りに任せた単調な攻撃など、脳内を読むまでもありませんな」



昌爺は仕込み杖を素早く動かし、ナガンの肩や脇腹、足を次々に切りつける。体のあらゆる箇所から出血し、仰向けで床に倒れるナガン。



昌爺「おっと。貴殿を見て田代を思い出してしまいました……懐かしさから、つい手を緩めてしまいましたよ。その傷の浅さでは、命を奪うまでには至りませんな」



乳房を床に突き刺したナガンは、前屈みになりながら立ち上がった。目がかすみ、昌爺が歪んで見える。出血により今にも気を失いそうだった。



昌爺「……孫弟子だからと手加減したことが、地獄のような思いを味わわせることになってしまいましたか。これ以上苦しまないよう、ひと思いに殺して差し上げます」



仕込み杖を思い切り振って、刃に付着した血を吹き飛ばす昌爺。ナガンを頭から縦に真っ二つにするべく、仕込み杖を体の正面で構える。



ナガン「……私の思考を読む……か。ならこうするとどうなるのだろう……?田代先生に禁止されていて、私も絶対にやりたくなかった……乳房の禁断の使い方……」



ナガンは両耳からイヤホンを外した。広背ひろせ モモの曲により抑え込まれていた乳房に取り憑く悪霊が、ナガンの精神を一気に侵食する。

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