精神感応(全4話)

精神感応①

シゲミの祖父が諜報活動に出かけてから4時間後の明け方、シゲミ一家邸宅を訪ねる者がいた。浜栗組はまぐりぐみ組長の娘・ミキホ。出迎えたシゲミは事情を聞かないまま家に上げた。


市目鯖しめさば高校のブレザーを着て、リビングの椅子に座りうつむくミキホ。ピンクのスウェット姿のシゲミが、お湯の入ったシーフードカップ麺とフォークをミキホの前の机に置く。



シゲミ「私、カップ麺くらいしか料理できないの」


ミキホ「……ありがとう」



ミキホはカップ麺に手を付けようとせず、うつむいたまま。シゲミはミキホの右隣の椅子に座る。



ミキホ「……日付が変わってしばらくしたころ、親父おやじが私の部屋に来てさ。『身支度をして今すぐシゲミの家に行け』って、アンタんの住所が書かれた紙を渡してきたんだ。でも電車もバスも終わってたから歩くしかなくて、こんな時間になっちまった」



ミキホはシゲミのほうに体を向ける。



ミキホ「昨日はずっと変だった。組員が一斉にどこかへ出かけて、事務所に残ったのは親父以外に3人だけ……みんなカチコミに行ったって、後から聞いたよ」


シゲミ「お父さんから聞いたの?」



無言でうなずくミキホ。



ミキホ「みんな殺されただろうって……もしそれが本当なら私は絶対に許さない」


シゲミ「……気持ちはわかる。でもミキホちゃんが単身乗り込んで勝てる相手じゃない。それにお父さんは、アナタに生きてほしくて逃がしたんだと思う」


ミキホ「相手は幽霊の集団なんだろ?だからってビビって」


シゲミ「だからこそよ。相手が幽霊だからこそ私たちに任せて。幽霊暗殺のプロに」


ミキホ「……」


シゲミ「命を無駄にするだけの報復なんて、もうやめにしましょう。敵は、私たちプロが完全に駆逐する。それまでアナタはウチで待ってて」



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東京都 滑浪なめろう

大きな商業施設が多数併設されているターミナル駅で、1日の利用者数は100万人近い。自称女子中学生探偵・荒川あらかわ ナガンも、日々の通学で滑浪駅を使っている。


PM 6:55

居合道の自主練を終え、刀袋かたなぶくろを右肩にかけながら自宅へ帰る途中のナガン。帰宅ラッシュにあたる夕方7時前後の滑浪駅には大勢の人が集まり非常に混雑する。人混みが好きではないナガンだが、授業と練習を終えると、滑浪駅にたどり着くのは帰宅ラッシュの時間帯になってしまう。


人混みのストレスをなるべく感じないように、ナガンは毎日イタチのようなスピードで駅構内を駆け抜けている。


この日も足早に改札を抜け、ホームにつながる階段を下ろうとしていた。しかし思わぬ形で足止めされる。改札を抜けてすぐ、袴姿はかますがたで木製の杖をつく老爺に道を尋ねられたのだ。



老爺「もし、そこのJC。皮剥線かわはぎせんのホームはどこでしょうか?拙者、滑浪駅を使うのは初めてで、完全に迷ってしまいましてなぁ」


ナガン「いや私もよくわからないんで、駅員さんに聞いたほうが確実ですよ」



老爺・昌爺まさじいの左横を通り抜けてホームに向かおうとするナガン。しかし昌爺に刀袋を掴まれてしまう。



昌爺「老人を邪険に扱うものではありませんぞ。今の日本社会があるのは、拙者ら団塊の世代が必死に働いたからこそなのですから」


ナガン「ちょっ何するんですか!痴漢!変態!異常性欲者!」



ナガンは昌爺から離れようと全身に力を入れて体をのけぞらせるが、刀袋をがっちりと掴まれ離れられない。



昌爺「体には触っとりませんがな。拙者が鷲づかみしたのは、臀部や胸部ではなく刀袋ですがな」


ナガン「この刀はお尻やおっぱいと同じくらい他人に触らせたくないんですー!」


昌爺「それは妖刀だから、ですかな?」


ナガン「えっ!?」

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