負けを覚悟のカチコミ③

PM 11:59

明かりを消した自室のベッドの上で仰向けになり、スマートフォンの画面を眺めるシゲミ。表示されている時刻が0時ちょうどになった。同時に蟹沢かにざわと約束していた1週間が経過。1週間以内に蟹沢から何も連絡がない場合、蟹沢を含む浜栗組はまぐりぐみはすでにこの世にないものと考えろと言われている。


シゲミは家族用のメッセージグループに、向風むかいかぜとその仲間と思しき男女の顔写真を投稿。蟹沢からもらった情報を全て共有した。


1分後、シゲミの部屋の入口扉が開き、室内に明かりが灯る。祖母・ハルミが猛スピードでシゲミの部屋にやって来たのだ。



ハルミ「シゲミよ、この向風というヤツがアタシャらを狙う敵じゃな」


シゲミ「ええ、間違いない。顔写真はAIで作ったものだから、正確な人相はわからないけど」


ハルミ「これだけあれば充分じゃ。此奴こやつらの素性を丸裸に、いや皮を剥いで内臓の中身まで明らかにしちゃるわ」


シゲミ「母上とキリミ、サシミが戦ったのもこの写真の一味だとしたら、敵は全員特殊な力に覚醒した幽霊だと思う」


ハルミ「十中八九そうじゃろう。だったらが役に立つ……聞いとるんじゃろクソジジイ!出てこぉい!」



数秒の沈黙の後、ハルミが見えない何かを右手で掴み、コブラツイストの体勢を取る。ハルミが絞め上げていたのは、透明になって隠れていたシゲミの祖父だった。悶絶しながらその姿を現す。



シゲミ「ジジ上、また私の部屋に……」


シゲミの祖父「嫌じゃ!嫌じゃ!ワシには関係ない!」


ハルミ「関係おおありじゃこのボンクラぁ!娘と孫たちが狙われとるんじゃぞ!」


シゲミの祖父「もうワシは死んどるんじゃ!生きてる家族の問題は、生きてる者だけで解決せい!」



シゲミの祖父をコブラツイストから解放するハルミ。シゲミの祖父は床に四つん這いになる。



ハルミ「そんな無責任なことを言うのか。ならもうお前は用無しじゃ。この場で成仏させてやる」


シゲミの祖父「えっ!?いやそれだけは……」


ハルミ「成仏したらもう孫たちの顔は拝めんし、を考えると死後行く場所は……極楽浄土ではなかろう」



シゲミの祖父「うぐぐぐぐぎゅぅ……ワシは血の池地獄に墜ちるのも、針地獄に墜るのも嫌じゃ……でも孫に会えんのはもっと嫌じゃぁぁぁ!」



大粒の涙を流すシゲミの祖父。その肩に手を乗せるハルミ。



ハルミ「じゃったら家族に協力せい」



顔を上げたシゲミの祖父に、ハルミは自身のスマートフォンの画面を見せつける。



ハルミ「この写真の人物たちが何者か探れ。過去の経歴、現在の潜伏先、生活範囲、他の仲間の有無などわかることすべてじゃ。もし可能なら此奴らの仲間として潜入し、アタシャらに情報を流せ。全員幽霊の可能性があるから、交渉次第ではジジイを仲間として招き入れてくれるかもしれん」


シゲミの祖父「……わ、わかった。調べ終わるまで少し時間をくれ」



シゲミの祖父は立ち上がると、とぼとぼと歩き、壁をすり抜けてシゲミの部屋の外へと出て行った。



ハルミ「ええかシゲミ!厳重に警戒しつつ総力を挙げて此奴らを潰す!負傷しとるトモミは留守番!キリミとサシミはトモミの護衛に回す!お前はアタシャと前線に立て!」


シゲミ「わかった」


ハルミ「トモミたちの代わりとしてジンくん、空手家のキョウイチくん、それからハゲ坊主の撃山の力を借りたい。連絡を入れてくれるかのう?」


シゲミ「了解……ちょっと話が戻るんだけど、ジジ上に情報収集をやらせるの?ジジ上って元々ただの無職で、ババ上が養ってたヒモだったんでしょ?」


ハルミ「そう伝えとったな。ジジイは立場上、その素性を家族にすら隠し続けてきた。アタシャは拷問して吐かせたから知っておったが……シゲミ、お前の祖父は生前、警察庁警備局公安課所属の潜入捜査官じゃった」


シゲミ「潜入……」


ハルミ「公的には存在しない『生きている幽霊』。つまりプロのスパイじゃよ。今のジジイはガチの幽霊じゃが」


シゲミ「えぇ……」


ハルミ「アタシャが殺し屋として現役バリバリじゃった頃、ターゲットの情報は全てジジイに調べさせとった。普段はボンクラじゃが、スパイとしての腕は信頼してええ」


シゲミ「成長するにつれて親戚の意外な一面を知ることってよくあるけど、まさかジジ上がスパイだったなんて……今度、同好会のみんなに話そう」


ハルミ「ジジイが情報を集めてきたら作戦を練り、総攻撃に移る。さぁて、向風とかいうドアホ、どうほうむってやろうかのう……」



<負けを覚悟のカチコミ-完->

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