負けを覚悟のカチコミ②

レストランの外に出た向風むかいかぜ避山ひやま昌爺まさじい。3人を半円形に取り囲むように、ヘッドライトが灯った黒塗りの自動車が二十数台停車している。車から降りてくる、黒スーツを着た男たち。その数、およそ60人。全員、散弾銃やアサルトライフルなどの銃火器を手に持っている。


スーツの男たちの先頭に立つのは、右手に自動式拳銃M1911A1を握った蟹沢かにざわ



向風「アナタはたしか浜栗組はまぐりぐみの若頭……避山、お前が拷問したのは浜栗組の人間だったようだね」


避山「見込み客の部下をボコちゃってましたか。でも尾行してきたのはアッチっすよ」


向風「不可抗力だ。お前のミスだとは思ってないよ。それにお前の捨て身の誘導で彼らを誘い出せた。この場で殲滅できれば、私たちも幾分か動きやすくなる」



20mほど離れて立つ3人をにらむ、浜栗組の組員たち。蟹沢が口火を切った。



蟹沢「アンタらを調査させていたウチの組員が消息を絶った。アンタらに消されたと推測しているが、本当のところどうなのか聞いておきたい」


避山「お察しの通り、その組員は死んだぜ。だが殺したのは俺らじゃない。誰の指示か正直に話せば見逃すつもりだったのに自殺したんだ」


蟹沢「死に追い込んだのはテメェらだろうが。そんな連中と手を組むことは到底できねぇし、このまま黙って引き下がるつもりもねぇ」



蟹沢の後ろにいた組員たちが一斉に銃を構える。



避山「んで、組総出でカチコミかい。絆の強いこと。おい昌爺、コイツら全員斬ってくれ」


昌爺「無理ですな。拙者、このヤクザどもを斬る分のお金はもらっておりませんので」


避山「はぁ!?8000万ももらっておいてまだむしり取るつもりかよ!このカツアゲジジイ!……クソっ、俺がやるしかねぇか」


向風「待て避山。昌爺さん、私の全財産である2万円をお支払いします。今はこれが限界です。しかしアナタの力を考えると、この害虫どもを駆除するには充分な報酬かと思います」


昌爺「……ええ、容易いですよ。2万円はもらい過ぎかもしれませんな」


向風「感謝します」


避山「昌爺の野郎、すっかり向風先輩の犬になってやがる」



昌爺は左手で地面についていた木製の杖の持ち手を引き抜く。杖の中には刃が隠されていた。



組員の男「若頭カシラ、いつでもいけますぜ」


蟹沢「下手に動かれる前に蜂の巣にする。全員



言葉の途中で蟹沢の首が宙を舞う。昌爺は目にもとまらぬスピードで接近し、仕込み杖で蟹沢の首を切断していた。


浜栗組の組員たちが銃を乱射するが、昌爺は自身に向かって飛ぶ弾丸を全て斬り伏せ、組員たちを次々に斬殺していく。2分足らずで60人のヤクザ全員がバラバラ死体となった。


昌爺は、腰の部分で体が真っ二つになった死体の背中の上に腰を下ろす。



昌爺「2分で2万。破格のお仕事でございました」


避山「さすが、『千人斬せんにんぎり』の通り名は伊達じゃねぇな、昌爺。つーか、この程度の連中を警戒してわざわざアジトを移したのは逃げ腰過ぎた」


向風「結果論だよ。ヤリーカで戦闘になればマスターに迷惑をかけることになるのだから、どのみち場所は移さざるを得なかった。それに出汁素だしもとの店はネットにもほぼ情報がない最高の隠れ家。今後もアジトとして使い続けたい」



向風は昌爺に近づき、尻ポケットから取り出した長財布の中の2万円を渡す。



向風「避山、死体の始末は任せたよ。私は昌爺さんと一緒に都内に戻って、浜栗組の残党を消す。事務所の大きさからして、ここに来たのが組員の9割以上だろうが、また報復だの何だのされないよう根絶やしにしなくちゃね」

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