動物対話③
キリミ「何だよ?」
出汁素「私は仕事柄、生きている魚を調理しますぅ。包丁を入れる寸前、魚たちはなんて言うと思いますかぁ?」
キリミ「そんなのわかるわけねぇだろ」
出汁素「私にはわかりまぁす。魚たちは決まって『殺さないで』と言うのですぅ。つまり命乞いですねぇ。今このフグも、必死で私に命乞いしていますぅ」
出汁素は包丁を振り下ろし、フグを縦に両断した。左右に分かれたフグの体がピチピチとまな板の上でのたうち回る。
出汁素「その命乞いを無視してぶった切る、圧倒的な優越感んん。その感覚が好きで私は料理人をやっている……のかもしれません。ぜひ、命乞いするキミたちも料理したいぃ」
キリミとサシミは素早く椅子から飛び降り、5m後方へ下がる。そしてキリミはズボンのポケットからコンバットナイフを、サシミは長袖の裾に仕込んだ4本の長い針を取り出した。
サシミ「お姉ちゃん、コイツ」
キリミ「ああ。ババアが言ってた、アタシら家族を狙ってる敵だろうな」
出汁素がカウンターの下から、刃渡り1mはあろう巨大な中華包丁を右手で取り出した。
出汁素「キミたちの行動を調べ先回りしぃ、戦うためにここで待っていましたぁ。もちろんキミたちが怪異暗殺者であることは知ってますしぃ、そのナイフと針は幽霊を除霊できる特別製だということも知っていますぅ」
キリミ「なら隠しても仕方ないな。私たちが使う武器の刃は塩を圧縮して作られている。幽霊を清める塩だ」
出汁素「なるほどぉ!では味付けには困らなそうですねぇ!」
サシミ「それにしても、戦場に水族館を選ぶなんてシャレてるのね。腐っても料理人ってこと?」
出汁素「いいえ。この場所を選んだのは、そんなくだらない理由ではありませぇん」
出汁素は後ろを向き、巨大中華包丁で水槽をクロスに切りつける。
出汁素「私の筋力とぉ、限界まで研ぎ澄ませた中華包丁の切れ味があればぁ、分厚い水槽に切れ込みを入れることは簡単んん」
出汁素が切りつけた箇所から水槽の中の水が漏れ出す。
出汁素「少し傷つければ、あとは水圧でバリーンですぅ」
切れ込みから水槽がひび割れていき、ダムの放水のように勢い良く水がエリアにあふれ出た。水は一瞬にしてキリミとサシミの膝あたりまで溜まる。
サシミ「浸水させる気……?」
キリミとサシミは、水で押し流された、出汁素が使っていたカウンターの上に乗る。水面に浮く足場として利用するために。一方、出汁素は水面より上に、足場もないのに浮いている。
キリミ「幽霊は空中に浮ける……地の利はヤツにあるな」
出汁素はエリア内を飛び回り、残りの水槽2つにも包丁で切り込みを入れ、同じ要領で割った。巨大な3つの水槽から漏れ出した水はエリア内に溜まり、水深はすでにキリミとサシミの身の丈をはるかに超えている。
キリミ「くそっ!泳いでアイツに近づくか」
サシミ「ダメ。水の中を見て」
水とともに水槽から流れ出た魚たちが優雅に泳いでいる。
キリミ「……ここ、たしか『シャークエリア』だったよな?」
サシミ「水に入ったらサメのエサね」
キリミとサシミから20mほど離れた水上に降り立つ出汁素。水にはギリギリ足をつけていない。
出汁素「気付きましたかぁ?ただ浸水させたかったのではありませぇん!獰猛なサメが飼育されている水槽を割ってぇ、キミたちの逃げ場を奪いたかったのですぅ!『シーソルトエンパイア』は国内でも数少ないイタチザメを飼育している水族館!その数、26匹!だからここを戦場に選びましたぁ!」
キリミ「イタチザメ?」
サシミ「大型の肉食ザメで、好奇心が強く何でも食べようとする。人間が襲われることもあって『人食いザメ』と呼ばれている」
キリミ「解説どうも、サメ博士。つまりここは、人食いザメがうようよ泳いでる危険水域ってわけだ」
水中から1匹のイタチザメが、キリミとサシミ目がけて飛びかかる。2人は身をかがめてかわした。イタチザメは再び水中へと潜る。
出汁素「この戦場は私の力『
サシミ「死後特殊な力に目覚めた幽霊だったのね、あの筋肉男」
キリミ「トムソンガゼルのユウタと同じか」
出汁素「さぁ、早く何とかしないとイタチザメの餌食ですよぉ!今朝、飼育員をみんな殺してしまったのでぇ、彼らはとても腹を空かせているぅ!」
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