自然発火③
参加者たちの体を包む青い炎が会場の装飾品に燃え移る。式場スタッフたちが消火しようと右往左往するが間に合わず、披露宴会場は炎の海と化していく。
トモミ「私を殺すためだけに、わざわざ式場を借りて、参加者まで集めたのですか?」
ヨーコ「まぁね。アンタの知り合いで未婚の童貞野郎を騙して、参加者を用意するのは骨が折れた。けど、そこまでしてでもアンタには消えてもらいたいんだよね」
トモミ「無関係の人間を利用し、命まで奪うとは……非常に危険な悪霊。駆除します」
ヨーコは床に手をつく。ヨーコの手が触れた部分からカーペットが燃え上がった。炎がトモミの足下まで広がったが、トモミは自身の足に引火する寸前に大きく飛び上がり、炎が燃え移っていないテーブルの上に着地する。懸命に消火活動をしていたスタッフたちは、全員火だるまになった。
ヨーコも炎から逃げるように新郎新婦用の長テーブルの上に乗る。
トモミ「これだけの炎、つまり熱エネルギーがあるのは、幽霊のアナタにとって好ましくないはず」
ヨーコ「燃えたら終わりなのはアンタも同じでしょ?ならイーブン。どちらが先に灰になるか、デスマッチといこう」
トモミ「いえ、燃え尽きるのはアナタだけです」
トモミはテーブルの上に置かれた白ワインボトルの先端を手刀で切り落とすと、中身を一気飲みする。さらにもう1本同じ要領で飲み干した。
トモミ「久々に同級生と会いたくなったので来ましたが、昔から結婚式は苦手でして。新郎と新婦がキスしたり、ケーキ食べさせ合ったりしてるの見ると、家でやれって思ってしまうんですよねぇ。そんな場所にせっかく行くなら、飲みまくって暴れてやろうと思ってましたぁ……アナタに先を越されてしまいましたがぁん……」
ヨーコ「戦いの最中に飲酒とか正気?まぁ、アルコールを摂取して燃えやすくなってくれるのはアタシとしちゃありがたいけど」
トモミ「……ゴチャゴチャうるせぇんだよ放火バカがぁ!」
豹変したトモミを見て「酒乱かよ」とつぶやくヨーコ。普段は礼節をわきまえているトモミだが、大の酒好きであり、少し酔うだけで凶暴化する。トモミは酒を飲む手を止めず、テーブルの上にあった白ワインボトル5本を一瞬で空にした。
トモミ「お前よぉ、私の同級生を燃やしやがったなぁ〜?」
ヨーコ「復讐でもする?」
トモミ「と思ってたけどぉ、それ以上にぃ、この私を
トモミはテーブルを蹴って、別のテーブルへと飛び移る。その上には、アルコール度数95%の酒・エバークリアのボトルが置かれていた。ボトルの先端を手刀で切り、中の酒に少しだけ口を付け、にやりと笑うトモミ。
トモミ「へっへぇ〜、バカが。会場が燃えやすくなるよう度数の高い酒を置いといたんだろぉ〜?安直なんだよこのバーナー女ぁぁ!」
ヨーコ「人格変わりすぎだろ」
ヨーコはウエディングケーキを皿ごと手に持ち燃え上がらせると、トモミの顔面目がけて投げつける。
ヨーコ「アタシ流のキャンドルサービスだ。
トモミはフラつき、意図してか偶然か、火のついたケーキをかわす。
トモミ「お前ぇ、まともに結婚式出たことねぇだろ〜?キャンドルサービスってのはなぁ〜、こうやってやるんだよぉ!」
トモミはテーブルの上のナイフとフォークを左手でぶんどるように掴むと、エバークリアを口に含み、吹きかける。そしてテーブルの周りを囲む炎に、酒がかかったナイフとフォークをかざした。先端に炎が灯る。
トモミ「人生の先輩からお前に送るキャンドルサービスだぁ!ありがたくうけとれぇぇぃぃやぁ!」
炎の灯ったナイフとフォークをヨーコに向かって投げつけるトモミ。泥酔状態での
ヨーコは身をかがめ、デザートのゼリーが乗った大きな銀色のトレーを盾にしてナイフとフォークを防ぐ。トレーを放り投げ、トモミのほうを見る。が、姿をくらませていた。
ヨーコ「あの酔っ払いどこ行きやがった!?」
会場内を見回すヨーコ。しかし一面青い炎が見えるだけで、トモミの姿はどこにもない。ヨーコが防御に徹しているうちにテーブルから落下し、焼死した可能性もあるが、その死体を確認するまで油断はできない。
キョロキョロと視線を動かすヨーコの頭上から、大量の液体が降り注いだ。強いアルコール臭がヨーコの鼻の奥を刺激する。ヨーコが天井を見上げると、トモミがシャンデリアを昇っていた。
炎が灯ったナイフとフォークをヨーコに投げた直後、トモミは高くジャンプし、シャンデリアに飛び乗っていたのである。
トモミ「焦熱地獄に落ちろライター女ぁぁぁはっはっはっはぁぁ!」
ヨーコ「何する気だ!?」
最上部にたどり着いたトモミは、シャンデリアを天井から吊るしているワイヤーにかじりつき、歯で切断した。
ヨーコ「ふざけ」
トモミを乗せたまま落下したシャンデリアが、ヨーコの体ごと足下のテーブルを押し潰す。ヨーコは燃え盛るカーペットの上に転落し、熱エネルギーによって消滅した。
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