自然発火④

PM 6:44

シゲミ一家邸宅

リビングのテーブルで、英語の文法問題集を解くシゲミ。向かい側にシゲミの妹であるサシミとキリミが並んで座っている。サシミは算数の宿題中。キリミはHUNTER×HUNTERハンターハンター 18巻を熟読中。



サシミ「シゲミねぇ、わからない問題があるんだけど、見てくれない?」


シゲミ「いいよ」


サシミ「これなんだけど」


シゲミ「……途中計算を間違えてる。ここ、もう1回筆算してみて」


サシミ「そっか、ありがと」


キリミ「……シゲミねぇ、C-4の使い方教えて」


シゲミ「ダメ」


キリミ「アタシにだけ冷たくねー?教えてくれよー!手榴弾でもいいからさー!」


シゲミ「キリミはまずちゃんと学校に行くこと。そしたら教えてあげる」


キリミ「ちぇっ、学校なんて行かなくても生きていけるってのによぉー」



ガラガラと玄関の引き戸が開く音が響く。そしてトモミがリビングに入ってきた。体の至る所に火傷を負っており、ドレスの裾が焼け焦げミニスカート並に短くなっている。



シゲミ「母上……火事現場にでもいたの?」


トモミ「そんなところです」


サシミ「同級生の結婚式に行ってたんだよね?」


トモミ「そのはずだったのですが、途中から記憶が無くて……気がついたら消防士さんたちと一緒に、燃え上がる結婚式場で消火活動をしていたのです」


キリミ「また酔っ払って何か爆破したんじゃねーのか?お袋、マジでその酒乱治せよなー」


トモミ「かなり危険な状況に陥っていた気がするのですが……思い出せません」



トモミに続いてリビングに入ってきた、シゲミたちの祖母・ハルミ。



ハルミ「トモミよ、アタシャはお前を一流の殺し屋に鍛え上げた。そんなお前が消火活動で負傷するとは思えん。何者かと戦闘になったんじゃろ」


トモミ「そのような気がしないでもありません……」


ハルミ「というのも、ちょっと気になることがあってのう」



ハルミは腕組みをする。



ハルミ「長く怪異暗殺の契約をしていたクライアントが、急に解約したいと言ってきてな。比良目ひらめプロダクションという芸能事務所の社長じゃ。理由を聞こうと脅してみたが、『アナタたち一家はじきに消される』の一辺倒。あまりに腹が立ったもんで、こっちから解約してやった」


シゲミ「昨日、私のクライアントも1つ契約解除になった」


ハルミ「そうか……これはアタシャの推測に過ぎんが、何者かがアタシャらを殺して、クライアントを奪おうとしとるんじゃないかのう?」


キリミ「……考えすぎじゃね?クライアントの1つや2つ、契約解除が重なることくらいあるだろ。偶然だよ、偶然」


サシミ「じゃあ、おばあちゃんが言われた『消される』っていうのは?」


キリミ「それは……ババアに脅されたから恨みの一つでも言いたくなったんだろ」


サシミ「ママが襲われたっぽいのは?」


キリミ「それは確定事項じゃねーじゃん。お袋本人の記憶が無いんだから」


トモミ「どうしても思い出せないのです……飲み過ぎましたね」



数十秒、リビングに沈黙が流れる。



シゲミ「ババ上の推測どおりの可能性が1%でもあるなら、私は警戒するべきだと思う」


ハルミ「アタシャはもちろん、シゲミと同意見じゃ」


トモミ「……そうですね。念には念を入れましょう」


ハルミ「決まりじゃな。敵が存在していると仮定し、各自いつ誰に襲われても対処できるよう警戒するのじゃ。外出の際は必ず武装せい」


サシミ「了解」


キリミ「はいはい、わかったよ」


トモミ「承知しま……あっ、晩ご飯の支度しますね」


キリミ「マイペースだなぁ」


シゲミ「私たちを狙ってる人物がいるとしたら、間違いなくカタギじゃないわよね。その道に詳しそうな人に当たってみる」


ハルミ「なら調査はシゲミに任せる。もし敵の存在を確認できたら、すぐに情報共有しとくれ。アタシャらと敵対するのがどれほど恐ろしいことか、其奴そやつらに思い知らせてやらんとのう」



<自然発火-完->

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