自然発火(全4話)

自然発火①

昼下がりの繁華街を横に並んで歩く避山ひやまとヨーコ・フレイムフォックス。ヨーコは両手に、衣類がたくさん入った紙袋を2つずつ持っている。



ヨーコ「買い物に付き合うって、本当について来るだけ?荷物持ってあげるとか、そういう気遣いは一切なし?」


避山「俺は疲れてんだよ。働き詰めのおっちゃんをさらに酷使するな」


ヨーコ「だったら家で寝てろ」


避山「会話すると心が休まるんだ」


ヨーコ「アタシ以外のヤツでもいいじゃん」


避山「他の幹部は殺しに見返りを求めない殺人中毒者で俺とはタイプが合わないし、向風むかいかぜ先輩は上司だから気を遣う。心置きなく話せるのはお前くらいなのよ、ヨーコ」


ヨーコ「哀れなおじさん」


ヨーコ「本当に哀れだよ。仲間にした幽霊の管理も、新しい幽霊のスカウトも、怪異暗殺者の始末もしなきゃならない。やることいっぱいの可哀想なおじさん、それが俺」



2人の後ろを30mほど離れて尾行する、緑地のアロハシャツを着た短髪のチンピラ男性が1人。会話する避山とヨーコの横顔をスマートフォンで撮影し、何者かに送信する。


右折して路地に入る避山とヨーコ。チンピラは2人を見失わないよう、小走りで一気に距離を詰める。曲がり角に差し掛かった直後、チンピラの死角から伸びてきた右腕が胸ぐらを掴み、路地へと引き込む。腕の主はヨーコ。避山がその隣に立っている。



ヨーコ「ほら、やっぱり尾行されてたじゃん」


避山「あー、全然気づかなかった。やっぱ疲れてるな、俺」



右手で自分の髪をくしゃくしゃにする避山。ヨーコはチンピラをにらみつける。



ヨーコ「で、お兄さん何の用?」


チンピラ「……」


ヨーコ「答えないなら、殺しちゃうけど?」


チンピラ「……向風って男のことを調べてる。行きつけのバーはわかったんだが、それから足取りがつかめなくてね。アンタらもそのバーの常連みたいだから、何か知ってるんじゃないかと思ったんだ」


ヨーコ「なら普通に聞けばいいじゃん?やましいことがあるから尾行してたんでしょ?」


チンピラ「いやそんなことは……」


避山「誰かの指示、だな?それが誰か言わないと、俺らも向風のことは話せない」


チンピラ「……」


ヨーコ「殺しちゃっていい?」


避山「待て、見るからにカタギじゃねぇ。コイツのバックにそれなりの組織がついてる可能性がある。身ぐるみ剥いで何者か特定してからだ」



チンピラは左ポケットからスマートフォンを取り出して地面に落とすと、思い切り踏みつけて破壊する。



チンピラ「これで俺の胃袋の中まで調べても、免許証くらいしか見つからねぇぜ……俺のバックに誰がついてるか知りたきゃ、拷問でもするんだな」


ヨーコ「へぇ、意外と覚悟決まってんね。脅せば簡単に上を売る下っ端かと思ってた」


避山「念のため拉致らちっとくか。ヨーコ、コイツの面倒は俺が見るから、お前はシゲミの母親・トモミの暗殺に専念しろ」


ヨーコ「りょ」


避山「トモミは仕事のときしか外出しない超インドア派。家に忍び込もうにも、シゲミの家はセキュリティ対策万全で要塞のようだと聞く。トモミをれるチャンスはかなり少ないが……策は練れてるんだろうな?」


ヨーコ「ほとんど外出しないなら、無理やり外に出すまで。つーか、幹部の中じゃアタシしかトモミをおびき出せないと思うよ。結婚詐欺師であるアタシじゃないとね」


避山「り方はお前に任せるが、油断はするなよ。トモミは現役の怪異暗殺者だ。Dr.透野とうのの二の舞にならないようにな」


ヨーコ「もしかして、心配してくれてる?」


避山「お前が成仏したら、話し相手がいなくなって寂しいんだよ」

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