X線透視③

Dr.透野とうのが握るメスが撃山うちやまの胸に刺さり、白いタンクトップに血がにじむ。しかし撃山は表情を一切変えない。



撃山「先生よ、チクチク言葉はまだ耐えられるが、体をじかにチクチクされたら……キレちまうぜ」


Dr.透野「な、なぜだ!?心臓を突いた!なぜ何事もないかのように喋れる!?」


撃山「アンタの言ったように、俺は若くしてハゲちまい、それ以来スキンヘッドにしてる。しかし不思議なもんで、それから髪の毛が全く生えなくなったんだ」



Dr.透野はメスを引き抜き、もう一度、撃山の胸を突き刺す。が、撃山は意に介さず話し続ける。



撃山「あるとき、健康診断で医者に言われたんだよ。『撃山さん、心臓に毛が生えてますよ』って。何の脈絡もなく慣用句を言われたんで、最初は意味がわからなかった。が、レントゲン写真を見せてもらって理解したよ」


Dr.透野「レントゲン……」



Dr.透野は『X線透視Xレイビジョン』の能力で、撃山の心臓を透視する。心臓を覆い尽くすように大量の毛が生えていた。刺さったメスの刃は剛毛に絡まり、心臓まで達していない。




撃山「俺の頭に生えるはずだった毛は、心臓に生えちまったんだ。何の役にも立たないと思っていた心臓毛しんぞうげが、まさかこんな形で守ってくれるとはな」



撃山はDr.透野の手首を掴もうとするが、指がすり抜ける。



撃山「幽霊か。俺を殺そうとしていたようだが、やり方が良くなかったな」



撃山は車椅子の右の取っ手についたレバーを前方に倒し、大股を開く。車椅子の下部が緑色に発光し始めた。



Dr.透野「……しくじりました……申し訳ありません、向風むかいかぜさん」



車椅子の下部に装着された荷電粒子砲かでんりゅうしほうから一直線にレーザー光線が照射され、Dr.透野を飲み込む。光線は診察室の壁に穴を空け、病院の一区画をDr.透野ごと吹き飛ばした。奇跡的に病院にいた職員や患者に被害は出なかった。



−−−−−−−−−−



PM 3:03

Dr.透野が使っていたのとは別の診察室に案内された撃山。これまで撃山を担当していた老医師が正面の椅子に座り、貧乏揺すりをしながら撃山に詰め寄る。



老医師「撃山さぁん、困るんですよ!来るたびに当院を壊されては!」


撃山「ここの病院おかしいんだよ!患者を殺しまくる看護師がいたり、精神的にダメージを与えて心臓突き刺してくる医者がいたりよぉ!」


老医師「知りませんよそんな連中!アナタのせいでまた患者が減ってしまうじゃないですか!」


撃山「俺が通院する前から評判悪くて患者ほぼいねぇだろうが!このヤブ病院!」


老医師「とにかく壊した分の修繕費は請求させてもらいますからね!総額、27億6200万円」


撃山「絶対おかしいって!そんなにかかるわけねぇって!」



−−−−−−−−−−



PM 9:44

BAR ヤリーカ

カウンター席に横並びで座る向風と避山ひやま。男性マスターがそれぞれの前にウイスキーグラスを置いた。向風のものには青汁が、避山のものには牛乳が入っている。



避山「というわけで、Dr.透野がられました」


向風「殺し屋刑事デカ・撃山……ポコポコを倒したその力は伊達じゃないか」


避山「Dr.透野に献杯けんぱいっすね」



向風と避山はグラスを掲げ、中身を一気飲みする。



避山「こんなに早々と幹部がられるのは想定外でした」


向風「……そうだね」


避山「撃山を始末する策を練り直し、Dr.透野の代わりになる幽霊を探します」


向風「……」



向風はカウンターに突っ伏し、大声で泣き始める。



向風「私のせいだぁぁぁ私がちゃんとフォローしなかったからDr.透野はぁぁぁぁああああぁぁぁんあぁぁんあぁぁぁぁぁあああ!!!」



向風の背中をさする避山。



避山「泣き虫なのは相変わらずっすね、世話が焼けるんだから」


向風「だって仲間があああぁぁぁんうああぁぁんああんうぁぁん」


避山「先輩のせいじゃないっすよ。だから泣き止んでください」


向風「そうだな。私のせいじゃない。撃山のせいだ」



さっきまでの大泣きが嘘のように平静な表情で上半身を起こす向風。涙を流した痕すらない。



向風「仕切り直して、怪異暗殺者どもの始末を進めてくれ。私は引き続きクライアント獲得に集中する」


避山「立ち直りが地球の自転くらい速いのも、昔のままっすね」



<X線透視-完->

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