X線透視②

PM 2:33

Dr.透野とうのの診察室に、車椅子に乗ったタンクトップスキンヘッド・撃山 九連うちやま くれんが入ってくる。車輪を回し、Dr.透野の目の前で停止した。



撃山「あれ?先生変わった?前までヤブっぽいジイさんが担当だったんだが」


Dr.透野「少々事情があり、私が引き継ぐことになりました。透野と申します」


撃山「えらく仕事ができそうで、べっぴんさんの先生が担当になったもんだ」


Dr.透野「うれしいお言葉ですが、評価は実際に私の診察を受けてからお願いします」



Dr.透野は撃山の足をじっと見つめる。車椅子に乗っている時点で足に問題を抱えていることは素人目でも明らか。しかし彼女は『X線透視Xレイビジョン』の能力を使って撃山の足を骨の髄まで観察した。撃山の感情を揺さぶり、殺しの隙を作るために。



Dr.透野「両足、複雑骨折してから何度も動かしてますね?」


撃山「いや……その……リハビリを兼ねて1〜2回」


Dr.透野「そんなレベルではありません。折れた腓骨ひこつが変形し、筋肉を巻き込んで治りかけてます。このままだと歩けるかどうか。少なくとも杖をついて生活することは覚悟しなければなりませんよ」


撃山「マジか……」


Dr.透野「自然治癒では限界がありますね。手術が必要です」


撃山「手術!?それだけは勘弁してくれ!手術は嫌だ!絶対に受けたくない!」



Dr.透野は撃山のスキンヘッドを透視し、脳をる。扁桃体へんとうたいが活発に活動しているのを確認した。撃山は強い不安と恐怖を感じている。



Dr.透野「手術、苦手なんですね。というより、刺激が強いもの全部苦手なのでしょう?お酒もコーヒーも、生活環境が変わることさえも、アナタにとって我慢できないほど強いストレスになる」


撃山「……なぜそのことを?」



Dr.透野は机に置いていた、診断書カルテを挟んだクリップボードを手に取る。



Dr.透野「新しい担当医として、アナタのことを調べさせてもらいました。撃山 九連、39歳、独身。元警視庁刑事部捜査第一課所属。当時の階級は警部補。一般人宅を全焼させ懲戒免職に。その後、民間の警備会社に再就職しましたが、邪神・ポコポコとの戦いで両足を負傷し現在は休職中」


撃山「……詳しすぎだろ」



撃山の脳を観察し、動揺し始めていることを察したDr.透野。さらに追い打ちをかける。



Dr.透野「高校まで成績は優秀なほうでしたが、大学受験に失敗。浪人中に勉強のストレスとプレッシャーで後頭部の髪が抜け落ちハゲてしまった。そして自分の頭髪を恥ずかしく思い、残った髪を全剃りしてスキンヘッドにした。そうですよね?」


撃山「ぐっ……」


Dr.透野「当時の友人たちには『ダイ・ハードのジョン・マクレーン刑事に憧れて剃った』と話していたのでしょう?ちなみに映画『ダイ・ハード』シリーズでジョン・マクレーンを演じたブルース・ウィリスがスキンヘッドだったのは、5作中2作のみ。しかも人気と知名度が高い1〜3は髪が残っていた。だから友人たちはアナタの発言に違和感を持っていたそうですよ」



撃山「何回も見てるのに気づかなかった……くそぉっ!」



脳のあらゆる部位が活性化する撃山。感情が大きく乱れコントロールできていないことを、Dr.透野は悟った。そしてトドメとなる最後の情報を口にする。



Dr.透野「邪神・ポコポコに取り憑かれた同僚の服来ふくらいさん。アナタは彼の左腕を欠損させたことに強い罪悪感を抱いている。それから、共に戦った田代たしろという殺し屋の死も自分の責任だと感じ引きずっている。表に出さないよう一生懸命に心を押さえ込んでいるようですが」



両手の拳を強く握り、歯を食いしばる撃山。



Dr.透野「アナタは虚勢を張って周りの人を、何より自分自身を騙している。しかし本当のアナタは、ちょっとした刺激やストレスにも過敏に反応して深く傷ついてしまう繊細さんなのです」


撃山「お、俺を分析するな……」


Dr.透野「今こうして私の話を聞いているのも苦痛ですよね?けれどこれから先、生きていればもっと苦しいことがたくさん起きますよ。アナタにとってこの世は、安息なき地獄です」


撃山「……」


Dr.透野「その地獄から、私が解放してあげましょう」



Dr.透野は白衣の右ポケットからメスを取り出し、撃山の胸に突き刺した。

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