ジャンキー・ゴースト③

ジンに接近する筋肉老人。その距離は50mまで縮まっていた。



筋肉老人「さっきからぺちぺち攻撃してる蚊がいるなぁ〜!どこに隠れてるのかなぁ〜?車の下かなぁ〜?」



道の左右に停まっている車を1台ずつ持ち上げて下を確認し、放り投げる。あと十数台でジンが陰に隠れている車にたどり着く。



筋肉老人「車を持ち上げて投げる運動ぉ!寝たきり生活のストレス発散と運動不足解消に最適だなぁ〜ん!」



残り20m。逃げることを考え、ジンは背後に顔を向ける。そのとき、道路の真ん中に立つハルミが目に入り、ジンは考えを改めた。もしハルミやシゲミが今の自分と同じ状況で、敵を目前にしながら逃げるだろうか。いや絶対に逃げない。その考えが覚悟となり、ジンは一か八かの勝負に出ることを決める。



車を持ち上げる筋肉老人。お目当ての攻撃者はいない。そして車を放り投げようとした瞬間、運転席の窓からジンが上半身を乗り出した。筋肉老人の隙をうかがい、車内に入り、座席の下に潜んでいたのだ。


ジンはブラックウォーターガンの狙いを筋肉老人に定め、引き金を何度も引く。まるで雨のように水の弾丸が上から下に、筋肉老人の体を貫いた。至近距離からの射撃。強靱な肉体を貫くには充分な距離だった。


筋肉老人の両肩と頭に複数の風穴が空き、全身が霧散する。持ち上げられていた車が道路に落下。運転席から抜け出たジンも少し遅れて地面に落ちる。車の下敷きにはならずに済んだ。



ハルミ「見事じゃ、ジンくん」



ジンと筋肉老人の戦いの終結を、ビル4階のカフェから確認するリクと避山ひやま



避山「ほう。あのガキもやるなぁ。マッスルハッスル元気ジジイはやられちまったが、どうするよ?リク」


リク「……あれ?オレの代理があのジイさんだけなんて言いましたっけ?」



周辺のビルの屋上から道路に飛び降りてくる十数名の男女。全員、ジンが仕留めた筋肉老人のように体が肥大化している。地面にひび割れを残すほどの重量を誇る筋肉の塊たちが、座り込むジンの眼前に迫る。


直後、ブゥゥゥゥンという機械が回転する鈍い音と共に、ジンの頭上を無数の水の弾丸が飛び越えた。弾丸は左から右へ払うように筋肉の塊たちを蜂の巣にしていく。ハルミのウォーターガトリング砲による掃射。背負ったタンクに入った水を全て撃ち尽くした。



ハルミ「こういうときこそ、アタシャのウォーターガトリング砲の出番じゃ」



筋肉の塊たちは全員霧散した。ハルミは尻もちをつくジンに近寄る。



ジン「……助かりました。さすがハルミさんです」


ハルミ「武器の性能のおかげじゃよ。それにしても良い戦いを見せてもらった。勝利のお祝いにケーキでも食べに行こうか。アタシャのおごりじゃ」



ハルミの掃射を見て、沈黙するリク。その横でにやつく避山。



避山「……さぁどうする?今度はお前自身が行くか?」


リク「……ちっ」


避山「これで理解しただろ?今のお前じゃ策をろうしたとしても、老いぼれのハルミすら手に負えない。しばらくは俺の指示に従ってスキルアップに励め。頃合いを見て、戦うべき怪異暗殺者を指定する」


リク「……身に沁みました。オレはまだ半人前です。殺し屋として自力で金を稼ぐのなんて遠い先の話……だからここのカフェ代は避山さんのおごりってことで」



リクは席から立ち上がり、早足にカフェを後にする。



避山「あっお前!俺は行きつけのバーですらツケにしてる貧乏人だぞ!待て中坊!」



<ジャンキー・ゴースト-完->

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る