ジャンキー・ゴースト②

ジンは足元に置いていた黒いエナメルバッグからブラックウォーターガンを取り出す。ハルミは机に置いていたのウォーターガトリング砲を手にし、水の入ったバッグを背負う。


席から立ち上がり、歩道に出るハルミとジン。2人から100mほど離れた路上で、巨大な人間が暴れていた。全身の筋肉が肥大化した上裸の男。白い口ひげを伸ばしているため老人に見えるが、体は昔話に出てくる鬼のようにパンプアップしている。100m離れた場所から見ても目立つその巨体は、ゆうに3mを超えていだろう。



ジン「あれは……」


ハルミ「強い邪気をまとっとる。幽霊のたぐいじゃな」



巨大な筋肉老人は、乗り捨てられた乗用車を片手で掴み、辺り構わず次々に放り投げる。宙を舞う車は建物や人に直撃した。



筋肉老人「はっはーぁぁぁ!清々しい!全盛期以上の力だ!車がティッシュペーパーのように軽ぅい!」



怪獣映画のような筋肉老人の暴れっぷりを、近くのビルの4階にあるカフェから眺めるリクと避山ひやま。窓際のカウンター席に横並びで座っている。



リク「Dr.透野とうのに手配してもらった、病死した元プロレスラーの幽霊……ハルミだけを狙えって言ったのに、調子に乗って破壊しまくってる」


避山「お前の過剰な邪気、幽霊に注入すればドラッグをキメてるみたいに身も心も暴走状態にできるんだな。たまげたぜ」


リク「邪気を注入して暴走する幽霊……『邪ン気ージャンキー』と名付けよう」



ストローが刺さったグラスを手に取り、にやつきながらコーヒーを飲むリク。楽しげな少年を横目で見て、避山は少しだけ顔をしかめる。



避山「俺をやく漬けにしてそのダセぇ名前で呼ぶなよ。ドラッグには手を出さないって決めてるんだ」


リク「避山さんがあんな風になるのはオレの中でキャラ崩壊が甚だしいから、やりませんよ」



筋肉老人は車を投げるだけでなく、逃げ遅れた人を握りつぶし始めた。おしゃれな街道を血と煙が侵食していく。



ジン「警察がどうにかできる相手じゃなさそうですね」


ハルミ「ジンくん。しばらく実戦から離れていると言っとったな。ちょうど良い機会じゃ。アイツを自力で仕留めてみなさい。アタシャが細かいアドバイスはしちゃる」


ジン「……そうこなくちゃ!」



ジンは筋肉老人に狙いを定めてブラックウォーターガンの引き金を引く。銃口から勢い放たれた水の弾丸が筋肉老人の眉間に当たった。しかし水は弾け飛び、筋肉老人の体を霧散させるには至らない。



ハルミ「狙いは良い。だが遠すぎて威力が落ちとる。街道に沿って停まってる車の陰に身を潜めながら接近するんじゃ」


ジン「はい!」



ハルミのアドバイスどおり乗用車の陰に隠れながら移動し、筋肉老人との距離を詰めるジン。


人々が筋肉老人から離れていく中、逆に近づいていく人物がいることにリクと避山が気づいた。



リク「ハルミと一緒にいたあの学生、戦う気か?アイツも怪異暗殺者ですかね?」


避山「ターゲットには入っていないが、制服からして市目鯖しめさば高校の生徒だな。ならばシゲミと関わりがあるかもしれねぇ。念のため消しておいたほうがいい」


リク「ま、あの元プロレスラーなら、近づくヤツは片っ端から殺してくれるでしょう」



筋肉老人との距離が70mほどまで縮まったところで乗用車の影から顔を出し、再び頭を狙って発砲するジン。水の弾丸が当たる寸前に筋肉老人が体を動かしたため狙いが逸れ、右肩に当たる。やはり霧散しない。強靱な肉体を貫くにはまだ遠い。



ハルミ「相手の懐に潜り込むほかないぞ」



至近距離から撃たなければ仕留められないことをジンも察した。しかし近づけば筋肉老人の攻撃を食らう可能性が高まる。


ポコポコの母が操っていた部下との戦いでは、シゲミが煙幕を張って敵に接近するサポートをしてくれたが、今は自分の力だけで何とかしなければならない。


ジンは足を止めて葛藤するが、悠長に考え込む時間は無かった。体に水の弾丸が2回当たったことで何者かが攻撃していることに気づいた筋肉老人。攻撃された方向も察知おり、車や人を両手でなぎ払いながら攻撃者を探し始める。



ハルミ「どうするね、ジンくん」

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