殺し屋幽霊チーム会議

殺し屋幽霊チーム会議①

PM 11:00

新宿区 歌舞伎町

BAR ヤリーカ

横並びの7つのカウンター席。最奥に避山ひやま、その右隣に向風むかいかぜが座り、残り5つの席に男女が腰掛ける。


カウンターの中にいる黒いタキシードを着た男性マスターが気まずそうに口を開いた。



マスター「あの〜、私のイメージですが、悪そうな人たちの会議って向かい合わせに座ってやるものでは?横並びっていうのはなんとも……」


向風「いろんな形があっていいじゃない。多様性というヤツだよ。それに、マスターは私たちの計画を知っている。だからここなら安心して会議ができるんだ」


マスター「私に話したのはそのため?」


向風「いや、単に自慢したかっただけさ。店の貸し切り料金は避山にツケといてほしい」


避山「マジっすか!?払えるかな?」


向風「すぐに金に困らないほど忙しくなるさ。では自己紹介をしていこう。私のことは避山から話しているとおりだ。みんなのことを簡単にでいいから知りたい。まずは一番右端のご老人から」



上が黒、下が灰色の袴を着た、白髪を頭の両サイドに残しハゲ上がっている老爺が話し始める。



昌爺まさじい「拙者のことは昌爺とお呼びください。年は79歳で、生前は剣術の道場を経営していました。死因は肺ガン。幽霊になってから日課にしていたの途中に避山さんからお声かけいただき、今に至ります」


避山「昌爺は裏社会で『千人斬せんにんぎり』と呼ばれた剣の達人です。道場経営だけでは生計が立てられず、秘密裏に殺し屋もやってました」


向風「殺しの経験値は私をも凌ぐだろうな。老いぼれた見た目もターゲットの油断を誘うのに役立ちそうだ。期待しているよ。次は金髪の女性、よろしく」



昌爺の左隣に座る女性がカクテルグラスを口元に運ぶ。金色の長い髪をツインテールにした、くっきりとした目鼻立ちの女性。黒いパーカーを着ている。



ヨーコ「アタシはヨーコ・フレイムフォックス。日本人とアメリカ人のハーフ。年はどうでもいいでしょ?生前は職業じゃないけど、結婚詐欺師をやってた。死んでからもいろんな男をカモってたところを、避山にスカウトされたの。もっと稼げる仕事があるって」


避山「ヨーコはただの結婚詐欺師じゃない。カモった相手に訴えられないよう、金を巻き上げたらこの世から跡形もなく抹消する。詐欺師と殺し屋を兼業してるようなヤツです」


向風「殺し屋が最も苦労するのは、ターゲットに違和感を持たれず接近することだ。その方法として結婚詐欺のノウハウが活かせるだろう。理想的な能力だ。では続いて、白衣の女性」



ヨーコの左隣に座っている、スレンダーな中年女性が長い前髪をかき上げた。黒いワイシャツの上から膝丈まである白衣を着ている。



Dr.透野とうの「私は透野といいます。職業は内科医。勤め先の病院で怪談から落ちて死にました。今も同じ病院に取り憑いており、入院患者を殺すのが趣味ですが、退院の見込みがある患者は殺しません。苦しみながら死を待つだけの患者の命を早めに奪い、苦痛から救っているのです。言い換えれば私は、人助けをする良い殺し屋ってところでしょうか」


避山「Dr.透野は対価をもらわず、善意で人を殺します。俺には理解できないっすね」


向風「その善意を、今度は我々チームのために活かしてくれたまえ、ドクター。次は筋肉モリモリマッチョマンな方」



Dr.透野の左隣に座る、白い厨房服がはち切れそうなほどの巨体で、天井に届くくらい長いコック帽を被った男性が口を開く。



出汁素だしもと「私は出汁素といいますぅ!生前も死後も料理人!が暴れた拍子に持っていた包丁が首に突き刺さって死んでしまいましたぁ!はっはっはぁっ!笑えるでしょうぅ?ぜひ私の店に来てくださいぃ!ほっぺがとろけ落ちるほど美味しい料理を振る舞いますのでねぇ!」


避山「俺は食う気しないっすけど、出汁素は人肉料理が得意らしいです。食材の調達から調理まで全て自力で行う一流シェフ」


向風「人肉か、食べたことないな。お店、行けたら行くよ。最後は学ランのキミ」



向風は右隣に座る少年の肩に手を置く。1つの中学校に20人はいそうな、特徴のない男子学生。



リク「名前はリク。中2。いじめを受けてて、殴られた拍子に床に頭を打って死んだっぽい。ムカついたから、俺のこといじめてた生徒含め学校の関係者を殺し回ってた。その最中、避山さんと出会った。全人類抹殺計画を遂行中だから、学校以外の人間でも殺すよ」


避山「この店に充満している邪気はすべてリクが放っているもの。邪神ポコポコには数歩劣りますが凄まじい量です。いま生者が店に入れば、1秒足らずで卒倒するでしょう」


向風「さっきから気分が良いと思ったら、キミのおかげだったのか。そのアロマオイルのような邪気は、私たちの士気を高めてくれるだろう」



右手でウイスキーグラスを持ち、頭の上に掲げる向風。



向風「これから我々はチームだ。諸君らにはまず競合の排除をお願いする」



向風はグラスの中の青汁を一気飲みする。他の面々もそれぞれのグラスを掲げ、入っている飲み物を一気に飲み干した。



向風「では各自、割り振ったターゲットの始末にかかってくれ。避山、幹部と面会する場を作ってくれてありがとう。私からもお前に紹介したい人がいる」


避山「どなたです?」


向風「見込み客だよ。それにあたって幽霊を1体連れてきてほしい。30分以内に頼む」


避山「了解っす。ヨーコ、手伝ってくれ」


ヨーコ「いいけど、残業代出せよ」

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