殺し屋幽霊チーム会議②
PM 0:08
幹部たちが去ったBAR ヤリーカのカウンター席で青汁を飲む
向風「
比良目「つい先日キミは逮捕されたと聞いたが、どうやって出てきた?」
向風「拘置所の壁をすり抜けたんですよ」
比良目「……バカげた話だが、今こうして目の前にいるなら、信じるしかないな」
向風「さすが、柔軟な思考をお持ちだ」
向風の右隣に座る比良目。マスターにカシスオレンジを注文する。
比良目「警察に私のことは話してないだろうな?」
向風「もちろん。守秘義務がありますから。私は快楽目的の大量殺人鬼として捕まり、獄中死したことになってるでしょう」
比良目「獄中死?」
向風「今の私は幽霊です。そしてアナタをここにお呼びしたのは、私が幽霊を殺せるようになったことを証明し、再度クライアントになっていただくため」
比良目「……理解が追いつかないが、幽霊を殺せるというのは本当か?それができずにキミは廃業したんだろう?なのに突然……」
向風「幽霊は幽霊をたやすく殺せるんですよ。私たちなら、比良目さんがいま使っている怪異暗殺者たちより安く仕事を請け負います。依頼1件あたり……10万円からでどうです?」
比良目「その話が本当なら大助かりだ。既存の怪異暗殺者に1件依頼すると、軽く数億は飛んでいく」
向風「ある一家が日本国内の依頼を寡占してる状態ですから、彼女らが自由に金額設定できてしまう。そして他の除霊師だの霊媒師だのが詐欺師同然なのも、その一家に依頼が集中する要因となっています」
比良目「爆弾魔・シゲミとその家族……キミの言いたいことはなんとなくわかった。が、まだ実績の無いキミを完全に信用することはできない」
向風「そうでしょう。なのでここからは
入口の扉をすり抜けて
避山はうろたえる男性の尻を蹴り飛ばし、店の中へと強引に入れた。男性が床に膝を付くと、その頭を左手で上から押さえつける。
避山「連れてきました。酔って絡んできたガキ。誰にも見られないよう路地裏で殺して、死体はヨーコに処理させました」
向風「ご苦労、避山」
男性「んだテメェら!?こんな無礼なことして許されると思うなよ!若手起業家ナンバーワンだ俺はぁ!社員300人!いずれ上場予定!テメェらなんか砂みたいに吹っ飛ばしてやる」
向風「同じ社長でも比良目さんとは品性に雲泥の差がありますね。社長は傍若無人でも許されると思っているのかな?ならば実に時代錯誤。淘汰されるべき人間。避山、良い人選だ」
避山「どうも。ところで、そちらの方は?」
向風「比良目プロダクションの代表、比良目さんだ」
避山「大手芸能事務所の
比良目「初めまして。向風くんにはウチの所属タレントのスキャンダルをもみ消してもらっていた。表沙汰になるとまずい人間関係をね」
避山「どうぞよろしく。向風先輩、こんな大物とつながりがあったんすね」
向風「ああ。比良目さんには改めて我々のクライアントになっていただく」
向風は席から立ち上がると、避山が押さえつけている男性の目の前に立った。
男性「なんだテメェこの汚らしいカマドウマ!ぶっ殺されてぇのか?!」
向風「比良目さん、先ほど避山とこの愚かな青年が扉をすり抜けて入ってきたのはご覧いただきましたね?つまりこの青年も我々と同じ幽霊です」
向風は左手で、カウンター席に座る比良目の右肩に触れる。比良目が感じた感触は人間に触れられているものと何ら変わりない。直後、向風の手が透過して比良目の体の中に入った。驚きの声を出す比良目。向風は比良目の体から手を引き抜く。
向風「幽霊は物体に接触するか透過するか、自分の意思でスイッチできます」
向風はズボンの右腰にぶら下げたサバイバルナイフを右手で
向風「透過中の幽霊を殺す、つまり成仏させるには熱、光、音、運動といったエネルギーをぶつけて、幽霊を形作るエネルギーそのものを消し去るのが定石です。しかし必要なエネルギー量は膨大で、一般人が簡単に用意できるものではありません」
向風は、喚く男性の首にナイフを当てると横一閃に振り抜く。男性の首が大きく裂け、全身が霧散し始め、10秒足らずで消え去った。
向風「しかし幽霊同士なら透過中でも物理的に干渉でき、膨大なエネルギーがなくても成仏させられる。ここにいる避山が発見した法則です」
比良目に向かって頭を下げる避山。
向風「シゲミ一家への依頼料が高額なのは、彼女らが暗殺の際に大量のエネルギーを生むための大規模兵器を使っていることも要因。しかし我々はナイフ1本あれば充分。静かに効率良く、何より安く幽霊殺しを遂行できるのです」
凄惨な光景を見てしばらく声を失っていた比良目だが、拍手を始めた。
比良目「素晴らしいよ、向風くん。ぜひキミたちに仕事を依頼したい」
向風「ご理解、感謝いたします」
<殺し屋幽霊チーム会議-完->
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