市目鯖高校文化祭②

シゲミは椅子から立ち上がり、実験室に足を踏み入れた男児と母親をピューマのような目つきでにらむ。



トシキ「お客さん?すごい!今日は盛況だね!」


シゲミ「客は客でも、招かれざる客ね。アナタたち、何の用?」


母親「この子が市目鯖しめさば高校に進学を考えてまして。どんな雰囲気の学校なのか見学に来たのです」


男児「うん!ボク市目鯖高校に入りた〜い!」


シゲミ「その歳の子なら、中学のことを考えるのが先では?それに学校の雰囲気を知りたいなら、心霊同好会なんて覗く必要ないと思うけど」


男児「……やっぱこの作戦、無理があったか」


母親「そうですか?良い線行ってたと思いますけど?」


男児「生徒の親とその弟とかのほうが、まだ説得力あったかもな」


シゲミ「いくら身分を偽ろうとも、アナタたちがまとってる邪気を消さないと私の目は誤魔化せない」


カズヒロ「シゲミ……まさかこの人たち……」


シゲミ「幽霊。間違いない」



状況を飲み込めていないユウカの腕を掴み、立ち上がらせるサエ。カズヒロとトシキも立ち、ユウカを背中で守るようにして実験室の隅へと後ずさりする。


シゲミは足下に置いていたスクールバッグを左肩にかけ、親子とおぼしき幽霊との距離を2歩詰めた。



シゲミ「成仏させる前に聞きたい。アナタたちは何者?」


男児「ボクらはお前を殺しに来た、偽装親子殺し屋ユニットだ。ボクは見た目こそ子どもだが、幽霊になって45年のベテラン。よろしく、爆弾魔・シゲミ」


母親「実は私のほうが後輩。幽霊歴3年。どうぞよろしく」


シゲミ「誰の指示?」


男児「それは言えないねぇ」


シゲミ「殺し合いなら受けて立つけど、場所を変えたい。ここじゃりにくいから。屋上でどう?」


男児「OK。話が早くて助かるよ」



−−−−−−−−−



市目鯖高校 屋上

10mほどの距離を空け、向かい合うように立つシゲミと偽装親子ユニット。そこからさらに約20m離れた屋上の入口で、戦いに巻き込まれないよう身を隠しながら見守るカズヒロ、サエ、トシキ、ユウカ。


男児は背負っていたリュックサックから、母親は右肩のトートバッグからそれぞれ片手持ち用の鎌を取り出す。



男児「お前、爆弾を使うんだろ?校舎の破壊を最小限に抑えるため開けた場所を選んだんだろうが……ボクたちもそのほうが好都合」


母親「狭い場所だと連携が取りにくいんですよね。私たちは2人で1つ」


男児「そういうこと。じゃ、バラバラになってもら」



しゃべる2人に向かって手榴弾を2つ投げるシゲミ。目にもとまらぬ速度でバッグから手榴弾を取り出し、ピンを抜いていた。


男児と母親は後ろに下がり、爆発を回避する。しかし爆煙が視界を遮り、シゲミを見失った。



母親「先手を取られちゃいましたか」


男児「調子乗って話しすぎたな」



漂う爆煙に向かい、鎌を構える男児と母親。シゲミの攻撃に備えつつ、煙が消えた瞬間に攻撃を仕掛けるつもりだ。


しかしいくら待っても煙が消えない。むしろ徐々に濃くなっていき、2人を取り囲む。煙に混じって赤い光が点々と灯った。



男児「……発煙筒か!?」



煙の中からシゲミの声が響く。



シゲミ「正解。新しい武器と戦術の実験台になってちょうだい」



男児と母親の周囲で次々に爆発が起きる。シゲミが煙に紛れながら地面にセットしたC-4を起動したのだ。爆風に360度囲まれた男児と母親は、逃げ場を失う。



母親「ど、どうします!?」


男児「黙れ!今考えてる!」


シゲミ「考えるヒマなんて与えない」



男児と母親の頭上から、ピンが抜かれた手榴弾が8つ降り注ぐ。逃げ場のない2人は、手榴弾の爆発に飲み込まれた。


屋上に吹く風が爆煙をきれいさっぱり連れ去る。偽装親子殺し屋ユニットの幽霊は完全に消滅していた。

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