市目鯖高校文化祭(全3話)

市目鯖高校文化祭①

この日、市目鯖しめさば高校では文化祭が行われていた。学校の正門から校舎までの道、そして各教室がきれいに装飾されている。在校生だけでなくその家族や卒業生、近隣の住人、進学を希望している中学生などがたくさん訪れ、学校内は賑わっていた。


文化祭の開催期間中、各クラスが出し物を行う。全学年、演劇をやるクラスが8割以上。残り2割が飲食店やオバケ屋敷、ジェットコースターなど変わり種を用意している。


新入部員の勧誘を兼ねた出し物をする部活動や同好会も多い。校舎の4階、化学実験室では心霊同好会が活動記録として撮影した動画上映会を行っている。


プロジェクターを置いた実験用の机を囲むように座る、カズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。



サエ「揃いも揃ってクラスの出し物で役割無いって、ウチら陰キャ感すごいよね〜」


トシキ「文化祭って、自分が世界の中心だと思ってる人のためのイベントだし。ボクたちには無縁だよ」


カズヒロ「陰キャ陽キャでいうと、サエは陽キャじゃん。だから文化祭中ずっと忙しいイメージがあるけどなー。サエのクラスって何やってんだっけー?」


サエ「焼きそば屋〜。でもミキホが浜栗組はまぐりぐみの若い衆を連れてきて、ほとんどの仕事やってくれてんだよね〜。ほら、浜栗組って地域のお祭りでテキヤやってるからさ〜。ウチらがやるより何倍も効率的〜」


シゲミ「ある意味、プロ仕込みの焼きそばね」


カズヒロ「そっかー。じゃあサエも陰キャってことで」


シゲミ「でも陰キャすぎて、実験室に誰も来ない事実は深刻に受け止めなきゃね」



すでに文化祭は最終日で、時刻は正午過ぎ。これまで心霊同好会を訪ねてきた人の数は0の状態が続いていた。



トシキ「心霊同好会のポスター、目立つように他の部活動の上から貼ったんだけどなぁ」


カズヒロ「迷惑すぎだろー」


サエ「やっぱコンテンツに魅力が足りないんじゃな〜い?」


トシキ「シゲミちゃんが廃墟を吹き飛ばしたり、ハルミさんが廃村を絨毯爆撃じゅうたんばくげきしたりしてる動画の上映会だよ?ハリウッド映画並みに魅力も迫力もあると思うんだけどなぁ」


カズヒロ「活動紹介の動画としては不適切だろー」



カズヒロの言葉の直後、実験室の扉が勢い良く開いた。その音を聞き、扉のほうを向く4人。入口に息を切らした女の子が立っていた。茶髪のショートボブ。市目鯖高校のブレザーを着ているため、4人は在校生だとすぐにわかった。



女子生徒「心霊同好会ってここで合ってますか!?ずっとクラスの出し物で来れなくて……私、1年F組のユウカっていいます!」


カズヒロ「……」


サエ「……」


シゲミ「……」


トシキ「……」


ユウカ「……あっ、My name is Yuuka. I'm Shimesaba high school student. I want to」


サエ「日本語がわからないとかじゃないの〜!初めてのお客さんだから、動揺しちゃって〜」


カズヒロ「そうそう!黙っちゃってごめんねー!大歓迎だよー!」


シゲミ「……ようこそ」


トシキ「動画見る?ボクたちと雑談するのでもいいよ!」


ユウカ「ありがとうございます!ぜひお話を聞きたいです!」



カズヒロが椅子を持ってきて、そこにユウカが座る。



サエ「ユウカちゃんは何でウチらのとこに来てくれたの〜?」


ユウカ「私、先月までテニス部に入ってたんです。でも、あまりなじめなくて退部して。しばらく帰宅部だったんですけど、部活とか同好会とかやってる子たちを見るとやっぱり楽しそうで……今からでも入れる部はないかと思って探してたんです。そしたら、超だらだら活動してるってウワサの心霊同好会が文化祭で勧誘していると聞いて」


カズヒロ「理由はどうあれ、来てくれたのはうれしいよー」


トシキ「心霊同好会は元々ボクとカズヒロが、入りたい部活がないからって去年の夏休み明けに立ち上げたんだ。発足のきっかけは今のユウカちゃんと近いんだよ!なんか運命感じちゃうね!」


カズヒロ「そうだったなー。で、部員募集を始めた初日にシゲミが応募してきて、1カ月後くらいにサエが入ったんだよな」


シゲミ「そう」


サエ「私も帰宅部だったんだけど、やっぱさみしくて〜。でもほとんどの部活で輪ができちゃってたから、入りにくかったんだよね〜。だから新設だった心霊同好会に入ったの〜。ユウカちゃんと同じ感じ〜」


ユウカ「お話を聞いてるだけでも楽しくなってきました!ぜひ入りたいです!」


カズヒロ「マジかー!めっちゃありがたい!俺ら来年受験だから、同好会を残すかどうか悩んでてさー。1年生が入ってくれたら引き継げるじゃん!」



なごやかなムードと笑顔に包まれる化学実験室。しかしシゲミの視線が一瞬にして鋭くなり、実験室の入口へと注がれる。



カズヒロ「シゲミ、どうしたー?」


シゲミ「みんな、ユウカちゃんを連れて安全なところに」



実験室の扉が開く。緑色のリュックサックを背負った小学校低学年くらいの男児と、長い黒髪でオレンジ色のトートバッグを右肩に下げた母親とみられる女性が、手をつなぎながら入って来た。

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