解放③
向風「収穫は無かったが、何人かツバは付けておいたよ。例えばポコポコに憑依された男」
避山「
向風「独房が向かい同士だったんだ。彼にもう一度ポコポコを憑依させ、自分で自分のケツを拭かせるのは良いアイデアだと思わないか?」」
避山「でも拘置所を抜け出すには幽霊になる他ないでしょう?幽霊になった服来に、幽霊同然のポコポコを憑依させられるとは思えないっすね。必要なのは服来の肉体のほうです」
向風「では私のスカウトは無意味だったということか……避山、お前のほうは何人囲い込んだ?」
避山「野良で犯罪をやりまくってた幽霊を32体。そのうち死後特殊な力に目覚めた幽霊は、俺を除いて5体ですね」
向風「私とは比較にならないほどの収穫だな。その32体には少しずつ仕事をやってもらおう。『幽霊暗殺』の仕事をね」
向風は青汁を飲み干す。
向風「マスター、同じ物を」
迷惑そうな顔で青汁の紙パックをカウンター下の冷蔵庫から取り出し、グラスに注ぐマスター。
向風「しかし、顔も知らない幽霊に仕事を丸投げするのは不安だ。そこで避山、まずはその特殊な力を持つ5体の幽霊と私が面会し、互いのことを知る機会を作ってほしい。そして彼らを幹部とし、他の幽霊たちに仕事をさせる際は必ず同行してもらう」
避山「了解っす」
マスター「……口を挟むようで申し訳ありません。暗殺の依頼を大量にこなすために殺し屋のチームを組むのだという予想はつきます。が、なぜ幽霊である必要が?」
向風「気になる?」
マスター「話せないことでしたら詮索しません」
向風「いや、むしろひけらかしたい。私はしがない殺し屋で、人間の暗殺を請け負ってきた。しかしポコポコという邪神が復活し、怪異のエネルギーとも言える邪気をばらまいたことで、死んだ人間が幽霊になる確率が大幅に上がってしまったんだ。殺したはずなのに、何事もなかったかのように生活している人間、いや幽霊が大勢。結果、私はクライアントのニーズを満たせなくなった」
避山は向風の話を聞き、ニヤニヤと笑いながら牛乳を飲む。
向風「次第に『幽霊を暗殺してほしい』という依頼のほうが多くなる始末。だが方法がわからず、私は廃業した。そんなとき、大学時代の後輩である避山と再会してね。彼も幽霊になっていた。いろいろ話を聞いたら、幽霊同士は干渉できて、人間が人間を殺す感覚でたやすく殺せると言うじゃないか」
マスター「……幽霊と同じ土俵に立てるということですね?それで幽霊の殺し屋を集めていると?」
向風「そう。私は殺し屋という仕事を単なる飯の種だとは思っていない。人殺しが大好きな私が社会貢献できる数少ない手段と捉え、愛しているんだ。しかし殺し屋として活動を続けるには、人間だけでなく幽霊も暗殺できるようになり、クライアントのニーズを満たさなければならない」
向風はグラスに口を付け、青汁を少しだけ飲む。
向風「私のところにやって来ただけでも幽霊暗殺の依頼は膨大。私と避山だけが幽霊になって対応したとしても、すぐ手一杯になってしまうだろう。だから多くの部下が必要なんだ」
避山「部下になった幽霊どもに仕事を割り振り、然るべき対価を与える……幽霊でも生活には金がかかるから、食いつくヤツは多い。単に殺しの機会がほしいってヤツもいるけど」
向風「世の中には生きながらにして幽霊暗殺をしている者もいるそうだ。将来的に彼らは私たちの競合になるから、早めに全滅させる。もし殺した後に幽霊になる者がいたら、即戦力として引き入れる。それが当面の目的さ」
マスター「生きている暗殺者もいるのですか?ならその人たちに殺し方を習えば、アナタが幽霊になる必要などなかったのでは?」
向風「彼らのノウハウに再現性があるとは限らない。私ならできる方法でも、部下ができないのなら組織として採用するわけにはいかないんだ。それから、殺し屋が幽霊になるメリットはとても大きい。指紋や足跡は残らないし、遮蔽物を通り抜けてどこへでも逃げられる。だろう?避山」
避山「ええ。幽霊だけに『足がつかない』ってね」
向風「そもそも、発起人である私が幽霊になるリスクを負わずして部下が言うことを聞くだろうか?組織は上も下も一蓮托生であるべきだ」
マスター「……なるほど」
向風「もしこの店に私たちみたいな悪霊が来たら、マスターからも声をかけてほしいな」
マスター「アナタたちほど悪いのは来ないと思いますが……わかりました」
<解放-完->
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