解放(全3話)
解放①
東京拘置所 面会室
上下灰色のスウェットを着て、パイプ椅子に腰掛ける若い男・
撃山「よろこべ服来!怪異事件に強い弁護士を連れてきた!恩妙寺先生だ!」
未琴「恩妙寺 未琴と申します。事情は撃山さんから聞きました。ポコポコに体を乗っ取られて、犯罪に使われたと」
服来「そうなんですぅ〜!ボクの話を分かってくれる人なんて撃山さん以外にいないと思ってましたぁぁ〜ん!」
涙ぐむ服来。
撃山「恩妙寺先生は弁護士であり除霊師でもある。悪霊を駆除しつつ、悪霊によって犯罪者に仕立て上げられた人を救うプロだ。まさに俺たちが求めていた人だろ?」
服来「すごい……そんな理想的な方が本当にいたんですね……ちなみに恩妙寺先生はこれまで、怪異事件をどのくらい弁護してきたのでしょうか?」
未琴「全部で2件です」
服来「少ねぇ!2件ってほぼ未経験じゃないですか!」
椅子から立ち上がる服来。
撃山「バカ野郎!ほとんどの弁護士が0件な中、2件は破格の多さだぞ!」
服来「そ、そうなんですか……すみません、取り乱しました」
撃山に諭され平静に戻った服来は、再びパイプ椅子に腰掛ける。
服来「その2件の判決って、どうなったんですか?」
未琴「両件とも有罪で無期刑となりました」
服来「ダメじゃないですか!無期刑って、無期懲役ってことでしょ!?死ぬまで刑務所暮らしかもしれないってことですよね!?」
再び立ち上がる服来。
撃山「バカ野郎!元々は死刑判決が出てたのを、恩妙寺先生が最高裁まで戦い抜いて無期懲役に持っていったんだ!」
服来「……そうでしたか。すみません、声を荒げて」
座り直す服来。
未琴「服来さんの気持ちはわかります。無期刑と聞いてポジティブには考えられませんよね。しかし怪異事件を弁護し、減刑できたのは日本中探しても私しかいないでしょう」
服来「……」
撃山「恩妙寺先生の仕事ぶりは俺も見せてもらった。とても正義感が強く、お前の無実を証明するため最後まで諦めない人だと確信した。彼女を信じて、弁護を任せてくれないか?」
服来「正直、今すぐ恩妙寺先生を信頼するのは無理です……でも、撃山さんのことは信頼しています。だから撃山さんが信じろと言うのなら……信じます」
撃山「服来……お前そんな頑固なヤツだったのか。ムカつくなぁ」
服来「いや信頼するって言ってるじゃないですか!」
撃山「でもなんか言い訳がましいというか、素直に『お願いします』って頭を下げられないのは見苦しいというか」
服来「なんだとこのハゲ……看守さーん!このハゲ実銃持ってますよー!人撃ち殺しまくってますよー!」
撃山「ちっ!とにかく恩妙寺先生に弁護をお任せするからな!先生、すぐに逃げるぞ」
面会室からそそくさと立ち去る撃山と未琴。服来は男性の看守に連れられ、面会室から独房へと戻された。
独房の扉が閉まり、看守が外から鍵をかける。4畳程度の狭さで、トイレと洗面台と机しかない部屋。服来の独房暮らしはそろそろ3カ月になる。まだ裁判すら始まっていないものの、独房で感じる退屈さは刑罰そのもの。いつまで経っても慣れず、ストレスがたまる一方だった。
服来は三角座りをし、思い切りため息をつく。
???「こんなところ、いつまでもいたくないよね?」
扉の向こうから男性の低い声が聞こえた。扉に近づき耳を澄ませる服来。看守の誰とも違う、聞いたことのない声だ。
???「キミは他の人と少し違うみたいだ。どうだい?私と一緒にここを出ないか?」
声は服来がいる独房の扉の、さらに向こうの独房から響いている。服来は立ち上がり、扉の小窓から向かいの独房を覗く。2週間ほど前、誰かが勾留される音が聞こえたが、どんな人物か顔は見ていなかった。向かいの独房にいるのは何者か、扉越しでは一切わからない。
得体の知れない人物が「拘置所を一緒に出よう」と無茶苦茶な提案をしてくる。そんな状況に混乱しながらも、恐る恐る答える服来。
服来「……出るって、どうやって?」
???「死んで幽霊になるんだ」
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