マッチポンプ和尚③
シリコ「早く泣いて見せろババアがよぉ!カラッカラの荒野みたいな喉ふるわせて泣けよ早くよぉ!」
モモ「まだ幽霊が出てきてませ〜ん!私の絶叫は除霊するためのもので〜す!数分前の話も覚えてられない
口論しながら墓地の中心部にたどり着いた2人。宴会中だった幽霊100体のど真ん中にいることに気付く。幽霊たちは全員酒を飲む手を止めて、突然やって来たモモとシリコをじっと見つめた。
モモ「あっ……お邪魔でした……か……?」
シリコ「お、多過ぎだろ……」
墓地の入口から
炎水「その2人をキミたちの仲間にしなさい」
幽霊たちが一気に駆け出し、モモとシリコに接近する。幽霊の群れに背を向け、墓石の間を縫うように逃げる2人。
シリコ「除霊できるんだろ!?早くやれよババア!」
モモ「タメが!タメが必要なのぉ〜!思い切り息を吸うタメがぁ〜!」
シリコ「そんなことしてる暇ねーぞ!追いつかれちまう!」
逃げ惑う2人を、墓石の上に立って眺める炎水。
炎水「ソイツらをただの幽霊だと思うなよ。何体か特別な力を持った者も紛れておる」
走るモモとシリコの前に、髪が全て抜け落ち顎が外れた老爺の幽霊が立ち塞がった。老爺は2人に向かって口から唾液を飛ばす。その場にしゃがんで唾液を交わすモモとシリコ。唾液は2人の後ろの墓石に当たり、溶解させた。
シリコ「酸性のツバ!?当たったら死ぬぞ!」
直後、2人を夜の闇以上に暗い影が覆う。墓石を両手で持ち上げたマッチョな男性幽霊が上空から迫っていた。2人は横に転がるように影から抜け出る。1秒ほど遅れてマッチョな幽霊の持った墓石が地面に着弾し、粉々になった。
炎水「皆、いつになくやる気だな。特に男どもは若い女の仲間が欲しくてアドレナリンが出とるわ」
シリコ「このままじゃヤバい……」
モモ「どうしよ〜!殺されるぅ〜!」
シリコ「うろたえるなババア!この場を切り抜けるにはお前の力を使うしかねぇ!」
シリコは座り込むモモから離れるように走り出す。
シリコ「おい幽霊ども!私のほうがそっちの女より一回り以上若いぞ!」
幽霊たちは一斉にシリコのほうを向く。
シリコ「さぁ、夜の墓場で運動会といこうぜ!」
逃げるシリコを追いかける幽霊たち。
モモ「幽霊にも見向きされないなんて……私この先どうしたら……」
シリコ「ババア何やってんだ!今だ!やれぇぇ!」
モモは我に返り、大きく息を吸い込む。
モモ「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
モモの除霊絶叫が墓場中の空気を振動させる。絶叫に当てられた幽霊たちは次々に霧散。墓石の上に立っていた炎水も、超音波となった声で体を吹き飛ばされ、地面に落下した。
1分ほど叫び続けたモモ。100体の幽霊は全て成仏していた。
モモのそばに、息を切らしたシリコが近寄る。
シリコ「はぁ、はぁ……」
モモ「……なによ。私の除霊絶叫を聞いて、アンタの魂までどっか飛んでいっちゃった?」
シリコ「……いや、助かった。ババア……モモさんがいなかったら今ごろ……生意気なこと言ってごめんなさい」
頭を下げるシリコ。意外な言葉を受け、モモは恥ずかしそうに視線をシリコから逸らす。
モモ「……私こそ、シリコさんが冷静に判断して囮になってくれたから除霊できた……ゴメンね。それとありがとう」
泣きながら抱擁し合うモモとシリコ。モモの超音波で墓石から落ち、地面に頭を打った炎水は側頭部から血を流し、息絶えていた。
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AM 0:18
東京都 新宿区 歌舞伎町
BAR ヤリーカ
最奥のカウンター席に座り、ウイスキーグラスに注がれた白濁色の液体を一気に飲み干す
避山「聞いてくれよマスター!大量の幽霊を殺し屋みたいに使って檀家を増やしてた坊主がいてよぉ!でもその幽霊どもがみーんな成仏させられちまったんだ!坊主自身も死んじまって、あの寺も終わりだなぁ!だーっひゃっひゃっひゃっ!」
マスター「その話、どこが面白いんですか?酔ってるならまだしも、避山さんずっと牛乳しか飲んでないからシラフですよね?」
大口を開けて笑っていた避山が、急に真顔になる。
避山「ああ、1ミリも面白くない話だよ。人の不幸話なんかで笑えねぇよな。笑うなら成功談を聞いたときこそだ。マスター、俺たちは息ができなくなるくらい笑える成功談を持ってきてやるよ」
<マッチポンプ和尚-完->
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