マッチポンプ和尚②

「無許可で撮影すればいい」と口にした卒塔婆そとば シリコを一瞥する広背ひろせ モモ。彼女の態度や言葉遣いも気に食わないが、それ以上にプロ意識の低さにモモは腹が立った。


最近のモモの活動はインターネット上にとどまらず、テレビやラジオなど企業がスポンサードしているメディアにも及んでいる。そのため無断で私有地に入って撮影したことが公になれば大きな問題になることは確実。


一方、シリコの活動はXYZtube上のみで、彼女自身にスポンサーはついていない。自分の行為によって損失を被る関係者がほぼいないからこそ、無許可での撮影という考えが生まれるのだとモモは感じた。


モモとシリコには演者としてのスタンスや意識に大きな差があり、出会ったときから意気投合できず、車内には重苦しい空気がずっと充満している。



モモ「シリコさん、やっぱり無許可での撮影はダメですよ〜!」


シリコ「土地の所有者にさえバレなきゃ大丈夫だって。動画に『撮影許可を得ています』とかテロップ出しとけば視聴者は信じるし」


モモ「でももし何かあったら〜」


シリコ「お前、単にビビってるだけだろ?」


モモ「……はぁ?」


シリコ「夜の墓場に行きたくねぇから言い訳して帰ろうとしてんだろ?」



モモは心の中で「いてまうぞこのガキ」と思い、奥歯を食いしばる。が、隣の運転席で両手を広げて上下に動かし「冷静になれ」と合図を送る裏皮うらかわが見え、息を吐いて心を落ち着かせた。



モモ「ビビってませぇ〜ん。私、声だけで除霊できるから〜、幽霊なんて恐くありませぇ〜ん」


シリコ「アンタの動画見たことないけど、なんかめっちゃ泣き叫ぶんでしょ?いい年してそんな動画アップしてんの惨めじゃね?」


モモ「コラボ相手の動画も見てこないの〜?だったら生で見せてあげましょうか〜?裏皮さ〜ん、間八寺かんぱちじに向かってくださ〜い!」


裏皮「でも撮影許可は出なかったんだぞ?」


モモ「撮影はしませ〜ん!この礼儀を知らないガキに私の除霊絶叫を見せるだけで〜す!」


シリコ「上等だよ。ギャーギャーわめくババアとか、それこそ妖怪だろ。見物だわ」



助手席と後部座席でケンカする2人のXYZtuberを乗せ、裏皮は車を走らせた。



−−−−−−−−−−



PM 7:47

間八寺前で車から降りたモモとシリコは、にらみ合いながら社務所へと突き進む。そして2人同時に、窓口のガラスを砕きそうな勢いでノックした。


窓口の奥から炎水えんすい和尚が現れる。眉間にしわを寄せる女性2人を見て、その威圧感に体が一瞬固まった。



炎水「な、何かご用でしょうか?」


シリコ「墓参りしたいんだけど、今からいける?」


炎水「申し訳ございませんが、お墓参りは夕方5時までとなっております」


モモ「10分で終わるんで入れてくださ〜い」


炎水「ですから今の時間は」


シリコ「ちょっと参るだけなんだからゴチャゴチャ言うなハゲェ!」


モモ「止めても入りますからね〜」


炎水「ちょっと!」



炎水の制止を無視し、大股で墓地へと向かうモモとシリコ。社務所から炎水が出たときには、2人は墓地の中へと入り姿が見えなくなっていた。


炎水の背後に、どこからともなく避山ひやまが現れる。



避山「年増としまのほうが、さっき言った広背 モモってアイドルですよ。水色髪のガキは知らないな」


炎水「ヤツらに墓地の秘密がバレてしまう……」


避山「落ち着いてくださいな、炎水和尚。墓場にはアンタの息がかかった幽霊どもが100体もいるんだ。ヤツらにいつも通りのをさせて、あの2人を葬って仲間にしちまえばいい」


炎水「……寺の敷地内で死体は出したくなかったのだが、致し方なしか」


避山「幽霊どもは喜ぶでしょうぜ。現役アイドルの仲間ができるんだから。ま、頑張ってくださいよ。俺はそろそろオキニのバーに行く時間なんで、ドロンしますわ」

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