除霊弁護士②

PM 10:00

千葉県某所 住宅街

車椅子に乗った撃山うちやまが、未琴みことに指定された住所に到着する。両脇にマンションが立ち並ぶ路上。未琴は撃山より先に到着していた。黒いスーツ姿で、大きな白いゴルフバッグを背負っている。



撃山「まさかゴルフクラブで幽霊をぶん殴るとか言わねぇよな?」


未琴「私の除霊グッズ一式を持ち運ぶのにゴルフバッグが適しているだけです。クラブは入ってません」



辺りを見回す未琴。



未琴「夜10時ごろ、この道に被害者の元旦那の生き霊が現れるそうです」


撃山「俺らは身を隠しておくか。元旦那は裁判中にアンタの顔を見ているはず。しかもスキンヘッドで車椅子に乗った男を連れてたら怪しんで姿を現さないかもしれねぇ」


未琴「さすがはポコポコを倒した人。除霊のノウハウは私以上かもしれません。しかし今回は手出し無用ですよ」



撃山と未琴は路地に入り、未琴が路地から顔を出すようにして生き霊が現れるのを待った。



PM 10:35

未琴の視線の先、50mほど離れた路上の空間が水面のように歪み、依頼人の元旦那が現れた。髪は肩まであり、顔のほとんどを覆っている。上下グレーのスウェットを着た裸足の男が、依頼人の部屋があるマンションを見上げている。



未琴「出ました。撃山さんはここで見ていてください」


撃山「おう」



未琴は路地を出ると、元旦那の生き霊に向かって両足を広げて立つ。そして背中のゴルフバッグを右脇に下ろし、側面のジッパーを下げた。未琴に気づく生き霊。視線をマンションから未琴に移し、両手を前に伸ばしながらすり足で距離を詰め始める。


未琴はゴルフバッグから巻物を取り出して開くと、書かれている文字を読み始めた。



未琴「ちんちむらむら、ちんちむらむら、ちんちむらむら……」



撃山には理解できない念仏による除霊。しかし生き霊に変化は見られない。未琴は声量を上げハキハキと読経するが、生き霊はおかまいなしに歩みを進める。



撃山「……効いてなさそうだぞ。昔から思ってたけど、念仏って何の効果もないんだろ?」


未琴「いつもなら効くんです!でもあの生き霊がエネルギッシュすぎるんですよ!」



未琴はゴルフバッグからロウソク8本とマッチを取り出す。ロウソクを地面に等間隔に並べ、全てに火を付けた。さらにバッグに手を入れ、御札が貼られた藁人形をロウソクと同じ数だけ取り出すと、人形の頭に火を付け、ロウソクと平行になるよう地面に並べる。



未琴「これで念仏の出力を高めます!」


撃山「邪悪な呪いじみてるが、正しい方法なのか?」


未琴「黙って見てろこのハゲェ!ちんちむらむら、ちんちむらむら、ちんちむらむら……」



やはり生き霊は歩みを止めない。



未琴「なんで効かないの!?こうなったら……念仏ダイレクトアタァァック!!」



未琴は持っていた巻物を生き霊に向かって投げつけた。巻物は生き霊の腕に当たる直前に激しく燃え上がり、空中で一瞬にして灰になる。



未琴「なに……どうなってるの!?」


撃山「あの幽霊、めっちゃ体温が高いんじゃねぇか!?近づいただけで物を燃やしちまうくらいに……あんな危険な幽霊見たことねぇぞ」


未琴「くそぉ!このマグマオバケがぁ!」



未琴はゴルフクラブからロケットランチャーAT-4を取り出し、右肩に担いだ。



撃山「やけになるな!俺も協力するから冷静に対処しろ!」


未琴「うるせぇハゲェ!これは私の仕事だ!私が依頼人を守るんだ!私自身の手で!」


撃山「キャラ変してるじゃねぇか……」


未琴「消え去れこのDVストーカーぁ!!」



砲身からロケット弾が放たれる。しかしロケット弾は生き霊に当たる前に空中でドロドロと溶け出した。まるで飴細工のようにボタボタと地面に落ち、水たまりと化す。



未琴「そんな……奥の手も通用しない……」



地面に膝をつき、うなだれる未琴。生き霊が接近し、ロウソクが急速に溶ける。



未琴「絶対に守るんだ……依頼人を……私の手で……」



言葉で自分を鼓舞しても、手の打ちようが無い。その間にも未琴に迫る生き霊。


直後、車椅子の車輪を力いっぱい回して撃山が路地から飛び出し。生き霊と未琴の間に割って入る。



撃山「よく分かったぜ。アンタの除霊法はインチキ。しかし依頼人を守るという正義感は本物だ」



撃山は車椅子の右の取っ手にあるレバーを前方に倒し、大股を開いた。撃山の足の間、車椅子の下部が強い緑色の光を発する。



撃山「荷電粒子砲かでんりゅうしほう、射出!」



光は一直線に進むレーザーとなり、生き霊を飲み込んだ。撃山の背後で目を丸くする未琴。荷電粒子砲の光と共に、生き霊も消え去った。


未琴は力なく、小さい笑い声を発する。



未琴「ふふふ……アナタに実力を認めてもらうはずが、逆に助けてもらうなんて……ダメですね私は」


撃山「除霊なら俺でもできる。最初からそんなこと期待してねーよ。それよりアンタの強い正義感が気に入った。弁護士としての気概。俺が知りたかったのはそっちだ」


未琴「ハゲ……撃山さん……」


撃山「服来の弁護を、正式にアンタに依頼するぜ」



<除霊弁護士-完->

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