除霊弁護士(全2話)
除霊弁護士①
車椅子に乗ったスキンヘッドタンクトップ・
扉を開け、事務所の中に入る。部屋の奥にある木製の机の向こう、椅子に腰掛ける若い女性が1人。黒いスーツを着て、茶色い髪をポニーテールにしている。「こちらへどうぞ」と机の前に来るよう撃山に促す。車椅子の車輪を回し、机に近づく撃山。
女性「お越しいただきありがとうございます。
撃山「気にしないでくれ。休職中で売るほど時間のある俺が、忙しい弁護士先生を呼びつけるわけにはいかねぇからな」
未琴「お気遣いありがとうございます。Webサイトの問い合わせフォームを見て驚きました。まさかあのポコポコを除霊した撃山さんからのご連絡とは」
撃山「知ってたのか?」
未琴「珍しお名前なのですぐに分かりました。ポコポコを除霊しようと試みて返り討ちにされた除霊師は数え切れません。その戦いの歴史は数千年前までさかのぼれるほど長い。だから私たち除霊師はポコポコの危険度を重々心得ていますし、除霊に成功した者は英雄として界隈で広く知れ渡ります」
撃山「世間じゃ誰も信じてくれないんだけどな……だからこそアンタの力が必要なんだ。ポコポコの存在を信じてくれる除霊師兼弁護士のアンタの力が」
未琴「ポコポコに取り憑かれ、容疑者になった服来さん。彼の無実を証明しましょう。私も全力を尽くします。コーヒーを淹れますが、飲みますか?」
撃山「ありがとう。ミルクをたっぷり入れて、コーヒーを抜いてくれ」
椅子から立ち上がり、事務所の一角にあるキッチンスペースに向かった未琴。5分後、マグカップに入ったコーヒーと牛乳を持って戻ってきた。机の上にカップを置き、再び椅子に座る。
撃山「なんで除霊師と弁護士どっちもやってるんだ?」
未琴「私の親も、そのまた親も代々除霊師でした。目的は全員同じ。怪異に悩まされる人間を救うこと。その仕事ぶりを私も幼い頃から見てきて、誇りに思い、大人になったら除霊師になると決めていました」
マグカップに口を付け、コーヒーを一口飲む未琴。
未琴「しかし、ある事件の顛末を見て、除霊師というだけでは本当の意味で人を救えないのではないかと感じたのです」
撃山はマグカップに入った牛乳を音を立ててすする。
未琴「怪異に取り憑かれ、一家を惨殺した男性。その除霊を私の父が行いました。無事怪異を払うことはできましたが、男性は裁判で有罪判決を下され死刑に……怪異によって引き起こされた事件であることを証明し、取り憑かれた人を守る。それができなければ救ったことにはならない。この一件を通してそう思い、私は除霊師と弁護士を両立することにしたのです」
撃山「なるほどな。弁護士を山ほど探したが、やっぱりアンタが適任そうだ。でもまだ信頼し切れねぇ部分もある。恩妙寺先生、今いくつだ?」
未琴「26歳です」
撃山「その若さで独立してるのは優秀だからなのか、さっき言ったアンタの信念が他の弁護士事務所では妄言と捉えられ、干されて独立せざるを得なくなったのか……」
未琴「その疑問は最もです。では撃山さん、私が信頼に足る実力を持っているか、実際に除霊するところを見て判断していただけないでしょうか?ちょうど明日、除霊師としての仕事が1件入っているのです」
撃山「いや俺が知りたいのは除霊師としての実力じゃなく、弁護士としての実力なんだが……」
未琴「私が弁護した女性の依頼です。その方は元旦那からDVを受けていました。熱したフライパンを顔に押し付けられて火傷を負ったことをきっかけに裁判を起こし、結果、元旦那は懲役刑になりました。3日前から刑務所にいるはずなのですが、毎晩女性の家の窓から見える路上に元旦那が現れるというのです」
撃山「見間違いじゃないのか?」
未琴「間違いなく元旦那なのだそう。おそらく女性への未練や恨みが生んだ生き霊。鋭い目つきで睨みつけ、女性と目が合うとたちまち煙のように消えてしまうのだとか」
撃山「生き霊ねぇ。死んでなくても幽霊になれるんだな」
未琴「元旦那の出現場所は徐々に家に近づいているそうです。やがて室内に侵入するでしょう。その前に私が除霊します」
撃山「つまり弁護した被害者のアフターケアに行くってわけか。アンタを信頼する判断基準になるかはわからないが……興味はある。ぜひ見学させてくれ」
未琴「明日の夜10時に、この住所へいらしてください。私の仕事をお見せします」
未琴は住所の書かれた紙を撃山に渡した。
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