爆弾魔 VS 盗撮魔 ROUND 2③

サエの家の玄関前に並んで立つシゲミと蟹沢かにざわ



蟹沢「インターホンを鳴らすが、なんて名乗る?バカ正直に『ヤクザと殺し屋です』なんて言ったら扉すら開けてもらえないだろう」


シゲミ「サエちゃんには申し訳ないけど侵入しましょう。私たちがこの家に来たと武里村ぶりむらにバレれば、奇襲される可能性が高まる。蟹沢さん、ピッキングできる?」


蟹沢「……若いころによくやってたよ。このタイプの鍵なら開けられる」



蟹沢はかがむと、ズボンのポケットから針金を取り出し、鍵穴に差し込む。そして1分足らずで解錠した。



蟹沢「俺が先に入る。もし武里村がいたら、俺ももろともってくれて構わない」



うなずくシゲミ。蟹沢は音を立てないように扉を開ける。家の中は真っ暗。拳銃M1911A1を正面に向け、足音を立てないよう靴を脱いで上がる。蟹沢に続いてシゲミも入り、ゆっくり扉を閉めた。


廊下を進む蟹沢とシゲミ。広いリビングに出た。電気のついていないリビングには、うつむくように1人で椅子に座っている少年。蟹沢は拳銃を下ろす。



蟹沢「お坊ちゃん、ここの家の子だな?こんな暗い部屋で何してる?」


ショウタ「おじさんたちこそ誰?お父さんの知り合い?」


蟹沢「あー、えっと、そうだな……」


シゲミ「サエちゃんの友達よ」


ショウタ「そう、姉ちゃんの。姉ちゃんは入院中でいないよ。というか、勝手に人の家に入るのって犯罪じゃないの?」


蟹沢「すまないな、緊急事態なんだ。俺たち、武里村という男を追っている。キミのお姉さんを病院送りにしたのもソイツだ。知らないか?」


ショウタ「知らないよ、そんな人」


蟹沢「本当か?」


ショウタ「うん。知らない」


蟹沢「この家にも来てない?」


ショウタ「だから知らないって!」



ショウタは語気を強める。暗闇の中、目をこらしてショウタを観察するシゲミ。左頬がかすかに腫れているのに気付いた。



シゲミ「私たちは、アナタのお姉さんの仇討かたきうちに来たの。武里村を止められるのは私たちだけ」


ショウタ「……」


シゲミ「武里村に脅されてるなら安心して。私たちが必ずヤツを抹殺するから」


ショウタ「……助けてください」



武里村が天井をすり抜けるように降りてきた。そしてショウタの背後から首を絞め上げ、後ろに下がる。



武里村「このガキ、約束を破りやがって……家族もろとも魂を奪ってやる。だがまずはお前らだ!2年C組のシゲミと浜栗組はまぐりぐみのチンピラぁ!」


蟹沢「その子を人質にするつもりか?」


武里村「ああ。うかつなことをすればこのガキの魂を奪う。私の言うことを聞けば、ガキだけは助けてやるよ」



蟹沢は武里村に銃口を向ける。拳銃の使い方自体は心得ているが、普段から訓練しているわけではない蟹沢。射撃の腕前は自衛官や警察の特殊部隊員などとはほど遠く、持参している拳銃も護身・威嚇用の側面が強い。今のまま武里村に発砲したら人質に当たってしまう可能性が高く、うかつに引き金は引けない。



武里村「お前らさえ処分できれば、私は伸び伸びと盗撮を楽しめる……まずはシゲミ!お前を除いた市目鯖しめさばの女子生徒全員を撮影!やがてはグラビアアイドルや読者モデルたちも撮りまくってやる!」


シゲミ「……バカげた目標を掲げるだけあって学習能力も低いみたいね。それでも元教育者?」



シゲミはスクールバッグから閃光手榴弾を取り出し、床の上に転がした。蟹沢はその形状だけで何かを判別し、目を閉じ耳を塞ぐ。右腕を欠損しており、左腕でショウタを抱える武里村は防御の姿勢が取れない。強烈な光と音が一瞬だけ部屋を包む。武里村は怯み、抱えていたショウタを離した。


床にうつぶせで倒れるショウタ。蟹沢は目を開けて拳銃を構える。武里村との間に遮蔽物は何もない。よろめく武里村に向けて4回発砲。武里村の左肘に弾丸が1発当たり、肘を霧散させる。さらに右目の3つのレンズうち2つに弾丸が突き刺さった。残りの1発は外れてリビングの壁にめり込む。



武里村「ぐがぁぁぁぁぁぁクソドブネズミどもがぁぁぁぁ!」



武里村はよろめきながら駆け出し、壁をすり抜ける。



シゲミ「蟹沢さんはその子を。武里村は私が仕留める」



シゲミは蟹沢に背を向けて廊下を走り、玄関から外に飛び出した。

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