爆弾魔 VS 盗撮魔 ROUND 2②

PM 11:37

静まりかえった夜の住宅街をよろよろと歩く武里村ぶりむら。右腕を失っており、肩口を左手で押さえている。



武里村「あの吸血鬼……シャッターを切る寸前に私の右肩に噛みついて腕を吸い込みやがった……悪質なクズめ!」



−−−−−−−−−−



同時刻

武里村を追って走るシゲミと蟹沢かにざわ。2人の50mほど上空を併走するようにコウモリたちが飛ぶ。コウモリたちは隊列を組んで夜空に大きな矢印を描き武里村が逃げている方向をシゲミたちに示している。



蟹沢「あの高さにいるコウモリたちには武里村が見えているんだろう。ってことはそう離れてないはずだ」


シゲミ「よく訓練されたコウモリね」


蟹沢「血吸ちすい先生の形見だな、死んでないが」


シゲミ「武里村を見つけたら即始末するけど、構わないわよね?」


蟹沢「ああ。悠長なこと言ってられねぇ。だが……」


シゲミ「武里村の力は他人の魂を奪い、封印し続ける一種の『呪い』。幽霊がかけた呪いは、術者である幽霊本体を成仏させると解け、呪われた人は無事であるケースが多い」


蟹沢「なら武里村を始末すれば、ミキホ嬢の魂も戻るのか……?」


シゲミ「あくまで私の経験談。不安なら代案を出して」


蟹沢「いや、病んでは医に従う、だな。やってくれ」



−−−−−−−−−−



PM 11:52

武里村はサエとショウタの家にたどり着いた。玄関の扉をすり抜けて中に入る。中央にテーブルと4脚の椅子が置かれたリビング。椅子の1つにショウタが座り、タブレット端末で動画を見ている。ショウタはリビングに入ってきた武里村に気づいた。



ショウタ「カメラのおじさん!……腕、どうしたの?」


武里村「……何をやってるんだ?普段ならもう寝ている時間だろう?」


ショウタ「お父さんもお母さん、姉ちゃんのお見舞いで帰りが遅くなるって言ってたから……それまで起きてようと思って」


武里村「小学生は10時までに寝ろぉ!脳から成長ホルモンが分泌されずいつまで経ってもチビのままだぞこのボンクラぁ!」


ショウタ「ど、どうしちゃったのおじさん?」


武里村「電気を消せ……家の電気全部だ!早くしろ!じゃないとテメェの姉貴みてぇに病院送りにしちまうぞ!」


ショウタ「姉貴みたいにって、どういうこと……?」


武里村「……教えてやるよクソガキ。お前の姉貴を昏睡状態にしたのは私だ。私は他人の魂を奪うことができる。昼間お前に話しかけてきたチンピラどもも、その仲間の魂もさっき奪ってきたところだ」


ショウタ「そんな……」


武里村「お前も、お前の親も、いつだって魂を奪える。姉貴みたいになりたくなかったら私の指示に従えこの小バエがぁ!」



武里村はショウタの顔面を右足で蹴り上げる。ショウタは床に倒れ込むが、すぐに立ち上がり、点灯していた家の電気を消して回った。



武里村「私はお前の部屋で体を休める……これから誰が来ても居留守をしろ。もし入って来ても、私のことは絶対に話すなよ。もし変なことをすれば、お前ら家族全員の命は無いと思え」



ショウタはおびえた表情を浮かべながらうなずく。武里村はふわふわと浮かび上がり、リビングの天井から2階にあるショウタの部屋へと消えていった。



−−−−−−−−−−



住宅街を走るシゲミたち。突如、上空で矢印を描いていたコウモリがバラバラに散らばった。



シゲミ「どうしちゃったのかしら?」


蟹沢「血吸先生は、屋内にいる人間はコウモリたちでも探せないみたいなことを言っていた。武里村が近くの家に入ったんだろう」


シゲミ「軽く数百世帯はあるわね」


蟹沢「まだ動いてる組員にこの一帯の家を当たらせる。時間はかかるが、いつかは武里村にたどり着けるはずだ」



蟹沢はスマートフォンで組員にメッセージを送る。空からコウモリが1匹、シゲミの目の前に降りてきた。顔のあたりで滞空すると、道に沿って飛び始める。



シゲミ「……ついて来いってこと?」



シゲミはコウモリの後を追う。蟹沢も気づき、シゲミについて行く。3分ほど道なりに飛んだコウモリは、ある戸建住宅の前で止まった。門に取り付けられた表札を見るシゲミ。



シゲミ「サエちゃん……魂を取られた私の友人と同じ名字」


蟹沢「本命だな。念のため組員たちに他の家を回らせるが、この家に武里村が潜んでる可能性は高い」



シゲミは左肩にかけたスクールバッグに手を入れ、蟹沢はジャケットの内ポケットから拳銃M1911A1を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る