爆弾魔 VS 盗撮魔 ROUND 2(全4話)

爆弾魔 VS 盗撮魔 ROUND 2①

倒れたまま動かない血吸ちすい。その傍らにしゃがみ込んだ蟹沢かにざわは、血吸の手首に指を当てた。脈拍は感じられないが、背中が上下に動き、呼吸をしているのは分かる。



蟹沢「吸血鬼は脈拍が無いのか……ってそんな発見してる場合じゃない!血吸先生!?血吸先生!?」



いくら呼びかけても血吸は目を覚まさない。


蟹沢から見て右手側、店舗と店舗の間の暗い路地から足音が響く。誰かが走って近づいて来ている。蟹沢はしゃがんだまま路地の暗闇に拳銃M1911A1を向けた。


路地から現れたのは、ブレザーを着てスクールバッグを左肩にかけた女子高生・シゲミ。銃口を向けられていることに気付いたシゲミは両手を上げる。



シゲミ「撃たないで。私、あるド変態を追っているの」


蟹沢「ミキホ嬢と同じ市目鯖しめさば高校の制服……もしかして武里村ぶりむらという男か?」


シゲミ「そう。このあたりでヤクザ風の人たちが何人も気を失ってて、それを辿って来た。武里村に襲われた私の友人と同じ状態だから、もしかしてと思って」



拳銃を下ろし、立ち上がる蟹沢。



蟹沢「他の連中もやられてたのか……ソイツらは俺の部下だ。お嬢さん、名前は?」


シゲミ「シゲミ」


蟹沢「シゲミ……爆弾魔・シゲミか!?怪異専門の女子高生暗殺者!」


シゲミ「ご存じ?」


蟹沢「裏社会に身を置いてればその名は必ず耳にする。怪異ではなく人間の殺し屋としても複数の組がスカウトしてるそうだが、全部蹴ってるんだってな」


シゲミ「私、反社会的勢力になる気はないの」


蟹沢「もう充分に反社会的だと思うが……まさか武里村の件にあのシゲミが乗り出してるとは思わなかった」



口元に左手を当て、数秒考え込む蟹沢。



蟹沢「俺は浜栗組はまぐりぐみ・若頭の蟹沢ってもんだ。組長の娘に手を出した武里村を追っている。目的はキミと同じ。だから手を組まないか?」


シゲミ「ミキホちゃんのことね。彼女を助けるのも私の目的の1つ」


蟹沢「だったらなおさら力を貸してほしい。ここに転がってる男はウチの組の助っ人だったんだが、ご覧のとおり意識が無い。武里村と接触し、返り討ちにされたんだろう。彼がやられた武里村に俺だけで挑んでも勝ち目は薄い。プロの殺し屋の力が必要だ」


シゲミ「この人は?」


蟹沢「血吸っていうミキホ嬢の家庭教師。吸血鬼で幽霊に詳しいようだから、武里村の捜索に協力してもらってた」


シゲミ「血吸……この人が血吸先生か」


蟹沢「知っているのか?」


シゲミ「妹の担任だった」


蟹沢「そういえば、前職は小学校の教師だったそうだな」



シゲミと蟹沢の頭上に大量のコウモリが集まってきた。コウモリたちは翼を羽ばたかせながらキーキーと鳴いている。



蟹沢「血吸先生が飼ってるコウモリだ。コイツらを飛ばして武里村を探していた。もしかしたら何か知っていて、俺らに伝えたいのかもしれない」


シゲミ「コウモリ語は話せる?」


蟹沢「中卒だから習ってない。高校で習うんだろ?」


シゲミ「高校でもそんな授業ないわ」


蟹沢「血吸先生ならコイツらの言ってることも分かるんだろうが……」



不規則に飛び交っていたコウモリたちが、その体で文字を表すかのように、フォーメーションを組みながら飛びはじめた。



シゲミ「もしかして……!」



コウモリたちはフォーメーションを組み変え、空中にさまざまな文字を形成していく。その様子を見ながら、スマートフォンのメモ帳に文字を打ち込むシゲミ。シゲミの背後から蟹沢が画面を覗く。



ぶりむら

カメラ

たましい

とられる



蟹沢「まさか……武里村が魂を奪う方法か?」


シゲミ「カメラで撮られると魂をられてしまう……アイツの右目、スマートフォンのレンズのようになっていた……」


蟹沢「そんなことがあり得るのか?」


シゲミ「人間が幽霊になって超常的な力に目覚めるのはよくあること。例えば他人を呪い殺せるようになったり、他人に憑依して意のままに操れるようになったり。武里村がそういう力を身に付けている可能性は充分考えられる」


蟹沢「なら正面から戦うのは危険ってことだな……おいコウモリ!武里村はどっちへ行った?」



コウモリたちはフォーメーションを変え、体で矢印を表現する。武里村の逃げた方向を指し示しているのだ。



シゲミ「……かわいい」


蟹沢「コウモリたちに案内させ、武里村を追跡しよう。だが、まずは救急車を呼んで血吸先生と部下たちを病院に運んでもらう」


シゲミ「追跡は私に任せてくれない?1人のほうがりやすいの」


蟹沢「すまないが俺も同行する。会ったばかりの高校生に丸投げしたんじゃ、組のメンツが立たないんでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る