吸血鬼 VS 盗撮魔②

ショウタの目の前に立つ2人のチンピラ。武里村ぶりむらの顔写真とプロフィールが載った貼り紙を見せつけながら話し始める。



チンピラA「お坊ちゃん、この写真の男、見たことねーかな?この辺りにいるらしいんだが」


チンピラB「お兄ちゃんたち、このおっちゃんを探してるんだ〜。ちょっと用事があってね」


ショウタ「分かりません。そんな感じの人、東京都内を歩けば1日で600人くらい見かけます」


チンピラA「たしかに、これといった特徴が無い男だよな。でもよく思い出してほしい。俺ら、コイツを見つけるまで帰れないんだ」


ショウタ「う〜ん……やっぱり知らないです」


チンピラB「本当か〜?もし何か隠してるなら、ライターでキ●タマあぶっちゃうよ?」


チンピラ「おいバカ!ガキに手を出したなんて若頭カシラにバレたら俺らが殺されちまう!」


チンピラB「そうだな。ほんとに、ほんと〜に知らないか?お兄ちゃんたちを助けると思って、脳みその隅々まで記憶を探してくれよ〜」



ショウタと会話するチンピラたちを、15mほど離れた民家と民家の隙間に隠れて眺める武里村。



武里村「明らかにカタギじゃない……まさかミキホの報復に来たヤクザか?」


???「その通り。ヤツらは浜栗組はまぐりぐみの人間だ。組が総力を挙げて探してるよ、武里村校長」



背後から男の声が聞こえたことに驚き、振り向く武里村。隙間の奥、薄いピンク色のワイシャツにジーンズ姿の、40代半ばと見られる男が立っていた。



武里村「……誰だ?」


???「避山ひやまって者だ。しばらくアンタのことを観察させてもらってた。撮影した人間の魂を奪う力……盗撮の証拠隠滅だけに使うのは宝の持ち腐れというか、アホだな」


武里村「……いつから私のことを?」


避山「アンタがその力を初めて使ったすぐ後。の動きには敏感なんだ。特にアンタのような特異な力を持った同業者には」


武里村「つまり、キミも幽霊か?」


避山「幽霊になれるのはアンタだけじゃない。誰しも、強い未練や怨念を残して死ねば幽霊になれる可能性がある。だがその魂を奪う力は唯一無二だ。このままヤクザに消されちまうのは惜しい」


武里村「何が言いたい?」


避山「逃げる手助けをしようか?アンタが隠れ蓑にしてるあのガキより、俺のほうがよっぽど役に立つだろうよ」



チンピラたちと話すショウタのほうをチラリと見た後、3秒ほど黙り込んだ武里村。



武里村「私は教員時代、怪しい人について行くなと生徒たちに口酸っぱく言ってきた。これは私自身の考えに基づいた発言だ。だから得体の知れないキミの手助けなど不要。私の力だけでこの苦境を乗り越えてみせる」


避山「孤軍奮闘か、かっこいいね……そうだ、ついでに1つ教えといてやる。市目鯖しめさば高校のシゲミもアンタの抹殺に動いてる。ヤツは裏社会で名の通った、幽霊殺しのプロだ」


武里村「シゲミ!?くそ、私の警告を無視したのか……」


避山「もし手に負えなくなったら、夜9時以降に新宿にある『BAR ヤリーカ』って店に来なよ。俺はほぼ毎晩そこにいるから」



チンピラと話し終えたショウタが隙間のほうへ寄ってくる。一瞬だけショウタへ視線を向け、再び隙間の奥、避山に顔を向ける武里村。しかし避山はその場から消え去っていた。



ショウタ「おじさん、誰かと話してたの?さっきの怖そうな人たちはもうどっか行ったよ」


武里村「そうか。いや、野良猫がいてね。私は無類の猫好きだから、つい話しかけたくなってしまったんだ。ところでショウタくん、今夜私は出かける。もしかしたら数日帰らないかもしれない」


ショウタ「えー!?」


武里村「大事な仕事があるんだ。なるべく早く戻れるよう努力するよ」


ショウタ「……おじさん、無職なんじゃないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る