動き出す浜栗組②
PM 9:21
最寄駅に向かい繁華街の中を並んで歩く血吸と蟹沢。
血吸「あの、蟹沢さん。組員のみなさん、すごい熱量でしたけど……組長の娘の
蟹沢は正面を向きながら眼球だけを動かして、血吸に視線を向ける。
蟹沢「異様な光景でしたか?」
血吸「あっ、いえ、変な意味ではなく、みなさんの結束力といいますか、組長への忠誠心がすごいなと思いまして……」
蟹沢「組の連中全員、
血吸「大切な人……」
蟹沢「俺も含め、この道の人間はお
血吸「……ミキホさんは可哀想だと思いますが、裏社会で生きる人間に同情はできないというのが私の本音です」
蟹沢「ええ、血吸先生の考えは正しい。俺たちは哀れんでもらう価値すら無い人間。でもミキホ嬢だけは、俺たちが欲しくてたまらないものを無償でくれるんです。古株の組員からすると彼女は娘同然で、若い衆は姉のように頼もしく感じているでしょう。だからなんとしてでも助けたい。もちろん俺も同じ気持ちです」
蟹沢の瞳から涙が流れ、頬を伝う。
血吸「正直に言うと私は、浜栗組がどうなろうと知ったこっちゃありません。でもミキホさんを大学に合格させると、彼女自身と約束しました。その約束を
蟹沢「……そうですか。ミキホ嬢は良い先生に巡り会えたみたいだ。ですが血吸先生、ミキホ嬢が組長になったらウチの組に入るんですよね?」
血吸「……へぇ?何のことですか?」
蟹沢「ミキホ嬢は血吸先生をとても気に入ってるようで、『私が組を継いだら血吸先生も浜栗組に入る』と言ってました。だからもう確定しているのだと……」
血吸「してませんよ!ミキホさんが勝手に言ってるだけです!それに浜栗組は蟹沢さんが継ぐんじゃないんですか?若頭ですよね?」
蟹沢「俺はこの先も組のナンバーツーとしてミキホ嬢をサポートするつもりです。組長になる気なんて全くありませんよ。それに、もし組長になりたいなら武里村の捜索などせず、ミキホ嬢には眠り続けてもらってたほうが好都合でしょう?」
血吸「そうかもしれませんが……浜栗組長はミキホさんをヤクザにしたくないと言ってましたよ!」
蟹沢「娘は父親の言うとおりに生きなきゃならないんですか?」
血吸をにらむ蟹沢。
血吸「いえそんなことは……」
蟹沢「最終的にどう生きるか決めるのはミキホ嬢自身です。いくら
血吸「……大学に行くのも効率的に組を運営するためと言ってました」
蟹沢「さすがミキホ嬢だ。いつでも組のことを考え、未来を見据えている……まさにトップの器!合格できるよう頼みますよ、血吸先生。そしてミキホ嬢が大学を出たらぜひ浜栗組に」
血吸「合格はさせますがヤクザにはなりません!!」
血吸と蟹沢を含む浜栗組の組員たちによって、市目鯖高校周辺に武里村の包囲網ができ上がりつつあった。
<動き出す浜栗組-完->
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