少年とおじさん②

ショウタの家は市目鯖しめさば高校から10kmほど離れた住宅街の中にある。

玄関の左側が、家の壁面とブロック塀に挟まれた細い通路のようになっており、裏手にある庭へと続いている。車が2台駐車できるくらいの小さい庭、その片隅に黒いスライド開閉式の倉庫がある。


倉庫の扉を開けるショウタ。1畳ほどのスペースにスコップやバーベキュー用の機材などが置かれている。三角座りをすれば大人1人は入れそうだ。



ショウタ「ここで良いんですか?」


武里村ぶりむら「野ざらしより170倍マシだ。もし倉庫の扉を開けるときは、その前に2回ノックしてくれ。身を隠す」


ショウタ「分かりました」



武里村は倉庫の空きスペースに体を入れ、三角座りをする。



武里村「閉めてくれるとうれしいな」



ショウタは無言で扉を閉めた。



−−−−−−−−−−



3時間後

倉庫の外から扉がノックされた。その音で目を覚ました武里村。すぐに身を隠そうとするが、間に合わず扉が開く。


扉を開けたのはショウタ。夜の闇が包む庭に1人で立っている。



ショウタ「カメラのおじさん、これ、夕飯の残り。ちょっとしかないけど、食べてください」



ショウタは右手に持った皿を武里村に手渡す。大根やこんにゃく、ちくわなど、おでんの具が乗っていた。



武里村「……いいのかい?」


ショウタ「はい。ちゃんとしたお礼ができていなかったから」


武里村「今どき、キミのように心優しい子は珍しい」



武里村は手づかみでおでんを平らげ、皿をショウタに返す。ショウタは音を立てないようゆっくりと倉庫の扉を閉めた。



−−−−−−−−−−



翌日 PM 2:14

巣凧第二すだこだいに小学校 校舎裏

図工の時間に児童が作った焼き物を焼くかまどの前に立つ、ランドセルを背負ったショウタ。ショウタの目の前には同じくランドセルを背負った、ショウタより一回り体が大きい男子児童が3人。



男子児童A「持ってきたか?」


ショウタ「持ってきたけど……お母さんにバレたら」


男子児童B「お前が怒られるだけだろ?俺らには関係ねーし。いいから早く出せ」



ショウタはズボンのポケットから1万円札を2枚取り出す。男子児童Aはショウタからお札を奪おうとするが、ショウタは手に力を入れて離さない。



ショウタ「やっぱりダメ!これはお母さんがパートで稼いだお金で」


男子児童A「だったらまた稼がせろ!よこせ!」


ショウタと男子児童Aがお札を引っ張り合う、男子児童Aは手を滑らせ、地面に尻もちをついた。



男子児童A「いってぇー!完全に骨折れたー!尻骨しりぼね折れたー!」


男子児童C「大丈夫かぁ?」


男子児童A「やべぇ、こりゃショウタに治療費もらわなきゃだわ」


ショウタ「そ、そんな!ボクは何も」


男子児童B「お前がやったんだろ?言い訳するつもりか?」


ショウタ「……」


男子児童C「おとなしく金渡せよ。じゃないと薄っぺらになるまで踏み潰して、後ろのかまどで焼いてピザにして、お前の家にデリバリーしてやる」



沈黙するショウタの背後、かまどの中から武里村が、壁をすり抜けるように出て来た。ショウタと男子児童たちは目を丸くする。



ショウタ「カメラのおじさん!」


男子児童A「先公か!?」


武里村「“元”教師だ。キミ、骨折したと言っていたが、全然元気そうじゃないか?」



尻もちをついたままの男子児童Aを指さす武里村。



男子児童A「いや、えっとまぁ……骨折してるかどうかは……分からないですけど……」


武里村「では、すでに教師ではない私がサービスして骨折とはどんなものか教えてやる」



武里村は右足で、地面についた男子児童Aの手の甲を思い切り踏む。



男子児童A「がぁぁぁぁぁぁかっぁぁぁぁぁぁ!!」


武里村「手の痛みと尻の痛みを比べてごらん?同じくらい痛いなら尻も骨折しているよ」


男子児童C「てめー、大人のくせに子どもに手を上げんのか!?」


男子児童B「弱い者いじめしやがって!」


武里村「弱い者いじめか。たしかにそうだな。でも弱い者いじめの楽しさはキミらもよく知っているだろう?やめられないよなぁ?ショウタくんにこれ以上ちょっかいを出すと、おじさん、もっと弱い者いじめしたくなっちゃうなぁ」


男子児童A「ひぃぃぃぃぃぃ!」



這いつくばるようにその場を立ち去る男子児童A。取り巻き2人も逃げていった。



ショウタ「カメラのおじさん……」


武里村「昨日くれた夕飯の礼だよ」

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