前のエピソード――盗撮魔②

サエがミキホの見舞いに行った翌日

PM 3:18

市目鯖（しめさば）高校4階化学実験室

実験用の大きな黒い机を囲むように座る、心霊同好会のカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。サエが神妙な面持ちで切り出す。

サエ「うちのクラスの女子が病院に運ばれたんだけど、なんか変なんだよね〜。病気とか怪我とかじゃなくて、意識だけがそのまま抜かれたみたいな……」

トシキ「1年と3年にも、突然気絶して病院に運ばれた生徒が何人もいるって聞いたよ」

サエ「お見舞いに行ったとき、市目鯖の制服を着た女の子が担架で運ばれてるのを見た。入院してるうちのクラスの女子、ミキホっていうんだけど、その子もミキホと同じ状態なんだと思う……」

カズヒロ「ミキホって、ヤクザの娘だよなー？」

サエ「知ってんだ」

カズヒロ「有名だぜー。『市目鯖の裏番長』って言われてるからなー。サエ、お前ミキホと友達だったのかー。よくあんな怖いヤツとつるめるよなー」

サエ「私もクラスが同じになったときは怖いと思ったけどさ〜、人は見た目によらないじゃん？ほら、シゲミだって最初は『とっつきにくくて私とは違うタイプ』って思ってたけど、話してみたら気が合って、今ではすっかり仲良しだし〜」

シゲミ「私、とっつきにくいって思われてたの？自分でもオープンな性格だと思ってるんだけど」

トシキ「いや全然違うよ。謎が多すぎる」

サエ「ミキホもヤクザの娘って話だけが広まって、ちょっと前まで孤立してたんだよね〜。でもそんな先入観捨てて話してみたら、意外と将来のこと考えてるしっかり者で。裏番って言われるのもうなずけるけど、クラスメイトとして接するのは悪くないなって思ってるんだよね〜」

シゲミ「サエちゃんって本当の意味でのコミュ強だよね」

サエ「ありがと〜」

カズヒロ「とにかく、そのミキホも含めて複数の生徒が同時期に意識を失って病院送りになるなんて不自然だよなー……俺は武里村（ぶりむら）校長の幽霊が関係してると思うぜー」

トシキ「校長の幽霊って、ウワサでしょ？」

カズヒロ「おいトシキ、俺たち悪いことする幽霊を今までに何体も見てきだたろー？死んだ校長が化けて出るって言われ始めたのもここ最近のこと。無関係だと思えない」

サエ「……校長ってさぁ、覗きしてたんだよね〜。私、スカートの中を覗かれた」

トシキ「えっ！？いつ！？どこで！？そのときどんなパンツ履いてたの！？柄は！？色は！？そもそもパンツ履いてた！？」

シゲミ「口を閉じてド変態」

サエ「要するに校長は真っ当とは言えない人間だったの。だから幽霊になっても何をやらかすか分からないっていうか〜」

カズヒロ「救いようのないスケベ校長め……なおさら俺の説、ありえるんじゃねー？校長が幽霊になって痕跡が残らなくなったのを良いことに、生徒に何かしてるんじゃねーの？」

サエ「でも外傷もなく意識だけを奪うなんてことできるの〜？」

カズヒロ「分からねーけどさー、そこは幽霊なんだから、超能力みたいなのを使ってだなー……」

シゲミ「話が少し脱線するけど、私のところに『校長の幽霊を駆除してほしい』って依頼が、女子生徒から7件も来てるの」

サエ「マジ〜？」

シゲミ「恐竜の幽霊を倒したことをトシキくんが言いふらしてから、この手の依頼が多くて」

トシキ「ボクのおかげでシゲミちゃんが有名になったってことか！実に鼻が高い！」

シゲミ「依頼に共通しているのが、校長の幽霊は女子の部活の部室や更衣室に現れるってことなの。サエちゃんの話が本当なら、校長は幽霊になってもなお覗きをしてるんじゃないかな？」

サエ「絶対そうだって〜！」

シゲミ「ミキホちゃんの件と校長の幽霊が関連しているかは分からないけど、生徒に犯罪行為を働く校長は悪霊とみなして始末する。それでミキホちゃんの意識が戻ったり、犠牲者が出なくなったりすれば御の字。何も変化がなければ別の対策を考えるってことで、どうかな？」

カズヒロ「良いんじゃねー？じゃあ早速、校長の幽霊を探しに行くかー」

トシキ「もしこの事件を解決できれば、また有名になれるね！シゲミちゃん！」

シゲミ「私はひっそり活動したいの。言いふらすのはやめて」

化学実験室の外の廊下。武里村が扉に耳を当て、心霊同好会の話を聞いていた。4人が自身の捜索に乗り出すことを知ると、廊下の床をすり抜け、ふわふわと3階、2階、1階へと降りていく。

武里村「2年C組のシゲミ……恐竜の幽霊を倒しただと？そんなバカ話で臆する私ではないわ！校長に上り詰めた私の精神力を舐めるなよ！盗撮をやめる気も、この学校を離れる気も1ピクセルたりとも無い！心霊同好会、貴様ら全員の魂を奪い……たいところだが、そう簡単にいかないのが腹立たしい。策を練らなければ」

右目のレンズで撮影した者の魂を奪える武里村。しかし、そのためには2つの条件を満たす必要がある。1つは武里村がその場にいることを被写体となった人物が認識していること。対象者に気付かれないよう死角から撮影しても、ただ写真を撮ったのと変わらない。もう1つは、人物の素顔を明確に撮影すること。顔がブレたり、レンズに顔がしっかり収まっていなかったり、顔が何かで隠れてたりすると魂を奪う効力は得られない。

これらは死後数日の間に武里村が複数の生徒を使って実験し、把握したこと。武里村の魂を奪う力はあくまで「盗撮していることがバレた場合の緊急隠蔽手段」であり、自分から一方的に魂を奪う攻撃手段にはなり得ない。

＜盗撮魔-完->