盗撮魔(全3話)

盗撮魔①

PM 5:47

市目鯖しめさば高校3階 2年H組教室

窓際最後尾の席に横並びで座りながら話す2人の女子生徒。窓側に座っているのは心霊同好会所属のサエ。右隣に浜栗組はまぐりぐみ組長の娘・ミキホ。この日の授業は全て終わっており、教室には2人の他に生徒はいない。


ミキホの机の上には数学Bの問題集とノートが開いたまま置かれている。



ミキホ「同好会行かなくていいん?」


サエ「みんな中間テストの勉強で家に帰るからって、今日は休みになったんだよね〜。私もやんなきゃだけど、モチベ全然上がんなくてさ〜」


ミキホ「で、私の勉強の邪魔をしてると」


サエ「邪魔してないよ〜、ただ見てるだけ〜。ミキホ、いつも成績良いからどうやって勉強してるのか参考にしようと思ってさ〜。放課後も残ってやってんだね〜」


ミキホ「家より学校のほうが集中できるんだよ」


サエ「でも、この教室暑くな〜い?もう秋なのに、室温30度くらいあるっしょ?」



サエはスカートのすそを両手で握り、上下にバサバサと動かしてあおぐ。



ミキホ「やめな、そんな破廉恥はれんちなこと」


サエ「いいじゃんウチらしかいないんだし〜。てか変なところで真面目だよね〜ミキホって。不良でヤクザ目指してるけど成績は学年トップで、お酒もタバコもやってない。でも殺しとオヤジ狩りはやってる」


ミキホ「いや私のことは関係ない。教室の外で覗いてるヤツがいるからさぁ!」


2人から15mほど右、わずかに開いた教室の扉をにらみつけるミキホ。ミキホの後ろから扉を見るサエ。外で誰かが動き、立ち去る足音がした。



サエ「えっ!?覗き!?うわマジ最悪なんだけど〜」



立ち上がり、右ポケットからバタフライナイフを取り出すミキホ。



ミキホ「このまま逃がすわけないじゃん。覗いたケジメをつけさせる。ちょうど、難しい問題に詰まってイライラしてたところだったしな」



−−−−−−−−−−



廊下を走り、2年H組の教室から遠ざかる、深緑ふかみどりのスーツを着た長身の男。縁なしのメガネをかけ、軽くパーマのかかった長めの髪を七三分けにして若作りしている。名前は武里村ぶりむら トシヒサ。55歳。既婚(妻子あり)。


背後から「待てゴラァ!」というミキホの怒号が響く。武里村は体を限界まで動かし全速力で廊下を駆け抜けた。週4日スポーツジムに通っている武里村の脚力は高校生にも劣らない。


階段にさしかかり下りようとするが、下の階から上がって来た、青ジャージを着た体育科の男性教師・杜山もりやまと鉢合わせる。



杜山「武里村校長・・、どうしました?そんなに急いで。あっ、健康のために走ってるんですね?すばらしいですなぁ!しかし校長先生といえど校舎内の廊下や階段を走るのは見逃せませんねぇ!生徒同様、反省文を書いてもらいますよ!」



武里村はきびすを返し、上の階へと階段を上っていった。上へ行くほど逃げ道は無くなるが、武里村は冷静な判断ができなくなっていた。教員になってから30年以上続けてきた女子生徒の盗撮が初めてバレた。盗撮していたことがおおやけになれば、校長まで成り上がった今までのキャリアが全て崩れてしまう。そんな考えが頭の中を支配していた。


パニックになりながら武里村がたどり着いた先は、校舎の屋上。


40秒ほど遅れてミキホも屋上に到着。息を切らしながら辺りを見渡す。金網の向こう、校舎のふちに立つ武里村を見つけた。武里村も息を切らし、右手で金網を掴みながらミキホを見ている。


武里村に近寄るミキホ。



武里村「来るなぁ!それ以上来ると飛び降りるぞ!」


ミキホ「んなこと言われても『はいどうぞ』としか思えねぇな、武里村校長よぉ」


武里村「私の弱みを握ってするつもりだろう?ヤクザの娘がぁ!」


ミキホ「しねぇよ。だが、友達のパンツを覗いたケジメはつけてもらう」


武里村「ケジメ……?」


ミキホ「ポ●チンを切り落とせ。それでこの一件は不問にしてやる」


武里村「……」


ミキホ「校長、アンタの立場上、覗きをしてたなんてバレたくないだろ?確実にクビ、いやブタ箱行きだからな。それをポ●チン1本で見逃してやるって言ってんだ。そこから飛び降りる必要もない。マス掻きができなくなるだけで今まで通り暮らせる。悪い話じゃねぇだろ?」


武里村「……」


ミキホ「あっ、もしカメラで撮ってたならそのデータも消せよ」



武里村はジャケットの内ポケットからスマートフォンを撮り出す。



武里村「これに盗撮したデータが入っている。さっき撮影したキミたちの動画だけじゃない。他の女子生徒の動画や写真もたくさんだ。私の目標は、市目鯖の女子生徒全員の下着姿をカメラに収めること」


ミキホ「外道が。タ●キンも切り落とせ。2つともな」


武里村「だが私は何があっても『盗撮魔』なんてレッテルを貼られたくない。幼いころからエリート街道を進み、校長にまで上り詰めた私が、世間から盗撮魔呼ばわりされる末路を辿るなんてプライドが許せない。竿とタマを切り落としても、キミが私の趣味をバラさないという保証はないだろう……?ならば死んだほうがマシだぁ!」



武里村はスマートフォンを手にしたまま屋上から飛び降りた。金網越しに下を見るミキホ。武里村は校庭に落下し、手足があらぬ方向に曲がっていた。体の下から徐々に血だまりが広がる。



ミキホ「ざまぁねぇ。報いを受けたな」



−−−−−−−−−−



翌日、緊急の全校集会が開かれ、教頭の口から武里村校長の死が生徒たちに伝えられた。死因について教頭は直接的に言及しなかったが、自殺だとみなしている。


その日を境に、市目鯖高校中で「武里村校長の幽霊を見た」というウワサが広まりはじめた。

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