ドラキュラ家庭教師③
ミキホ「大学なんて酒と交尾しか頭にねぇサルどもが集まる場所だろ?そんなサル山に時間と金を費やす必要はねぇ。高校の教育までで充分だ。あとは自分で必要な知識を探して勉強する」
血吸「そんなことはないよ。さっき、組を企業に近い組織と捉えて運営すると言っていたよね?その考え、正しいと思う。だったら大学の経営学部に進んだらどうかな?企業経営のスペシャリストである教授たちから、質の高いノウハウを教えてもらえるよ。自力で知識を身に付けるより何倍も効率が良い」
ミキホ「……何ぃ?」
血吸「ミキホさんの言うように、大学には遊びほうけてる学生もいる。でもそれはごく一部。熱心に授業を受けて、研究者になる子だって大勢いるよ。それから、一度就職した後に大学や大学院に通い直して自分を磨き上げようとする大人だっているんだ。学びの場として大学はとても有意義な機関なんだよ」
ミキホ「……さすがは元教師。進学するのもありかもって、ちょっとだけ心が揺らいじまった。このままアンタと話してると、ヤクザの道から遠ざかっちまいそうだな。この手は使いたくなかったが、仕方ねぇ」
ミキホは右手をスカートのポケットに入れた。そしてポケットから手を出すと同時に、折りたたまれたバタフライナイフを展開。逆手に握り血吸の額に突き刺す。刃は根元まで深く刺さった。
血吸「私は大学の教育学部に通っていたんだ。卒業してすぐ教師にはならなかったけど、『教師になれる資格とノウハウがある』という安心感があったからこそ、いろんな仕事にチャレンジできたよ。職業選択の幅を広げるという意味でも大学に行くメリットは大きい」
ミキホ「なぜ平然としゃべり続けられる!?前頭葉をぶち抜いてるんだぞ!?刃先は脳髄にまで達しているはず!」
血吸「私が吸血鬼だから、というのが理由だね。普通の武器では死なない」
血吸は額に刺さったバタフライナイフを引き抜き、ミキホに手渡す。額の傷はひとりでに塞がった。
血吸「でも弱点はたくさんあって無敵なわけじゃない。だからさっきまで、お父様の脅しが怖くてミキホさんを説得しようとしていた。でも今は1人の家庭教師として、心から大学進学をおすすめしている。学費の問題で進学できない子も多い中、費用を工面してくれるお父様自身が進学を望んでいるんだ。このチャンスを逃すのはもったいないと思うよ」
ミキホ「……でも私はヤクザになりてぇ」
血吸「じゃあこうしよう。ミキホさんは今2年生で、受験は大体1年後だよね?その1年間、私が授業をする。それでも大学に受からなかったら高校卒業と同時にヤクザになる。1年だけ私に時間を与えてほしい」
ミキホ「……進学するとしても、アンタに教わる必要は無い。今の私の学力なら独学でも受かるぜ」
血吸「それはどうかな?学校の試験と受験は似ているようで別物。出題範囲は広いし、受験する大学によって問題の傾向が異なる。受験のための対策をしないと、学校の試験結果が良くても志望校に合格できるとは限らないんだ」
ミキホ「……」
血吸「私は単に勉強を教えるのではなく、受験のテクニックを教える。実は私、8浪して大学に行っててね。現役のときと合わせて大学受験を9年分も経験してるんだ。ある意味、受験のプロさ。だから私に教わるメリットはあると思うよ」
ミキホ「アンタはそれでいいのか?もし私が受からなかったら、オヤジたちはマジでアンタを殺そうとするぞ。吸血鬼だから死なないと高をくくってるのかもしれないが、死なないなら死にたくなるくらいむごい拷問をするだろうぜ」
血吸「ミキホさんが自分の夢を後回しにして勉強するんだ。私も覚悟を決めて指導する」
ミキホ「……確固たる決意か……そこまで言ってくれる家庭教師は今までいなかった。分かった。大学目指すよ。よろしく頼むぜ、血吸先生」
血吸「ありがとう。こちらこそよろしく。そうと決まれば、早速授業を始めよう!」
ミキホ「あー、授業は次からにしてくんね?今回来る家庭教師もどうせ今日で辞めるだろうと思って、予定入れちゃったんだよね」
血吸「そうなんだ。私は構わないけど……ちなみに何の予定?」
ミキホ「パパ活っていうか、オヤジ狩り」
血吸「いや今すぐ授業しよう。予定はキャンセルして」
<ドラキュラ家庭教師-完->
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