ドラキュラ家庭教師(全3話)
ドラキュラ家庭教師①
PM 4:03
十数台のオフィス用デスクが置かれた室内の一角、ガラス製のローテーブルを挟むように黒革のソファが2つ並べられている。それぞれに座る男。一方にはオールバックに黒いタキシードを着てマントを付けた吸血鬼・
ドンゾウの右頬には深い切り傷が残り、左手首には太い金色の時計を巻いている。事務所内には見るからにガラの悪い男たちが出入りし、その度に血吸へメンチを切る。浜栗の身なりと事務所の雰囲気に圧倒された血吸の背中は、冷や汗でビショビショになっていた。
ドンゾウ「娘の家庭教師をやってくれる方とは、まず私が面談してるんですよ。ほら、娘の部屋で2人きりで勉強を教えるわけでしょう?それを利用して娘に手を出すような
血吸「そ、そそそそそうなのですね……」
ドンゾウ「血吸先生は一流大学を卒業したエリート家庭教師で、人柄も良さそうだ。私としては一安心です。娘が大学に合格できるよう、どうか面倒見てやってください。もし合格できなかったら……分かってますね?」
ドンゾウはジャケットの懐から
血吸「こ、小指を切れと……?」
ドンゾウ「はっはっはっ!小指なんてもらっても困りますな」
血吸「で、ですよね〜」
ドンゾウ「切るのはポコ●ンです。ポ●チンを家庭菜園用の肥料にするんですよ。ポ●チンの栄養を吸ってできたトマトは格別に旨い。そのトマトをポ●チンの持ち主、今回の場合は血吸先生、アナタに食べさせる。それが私の趣味でしてね」
血吸「……」
ドンゾウは短刀を懐にしまう。
ドンゾウ「私は親もそのまた親もヤクザでしたし、中学までしか行ってないもんで、とても苦労しました。結局、こっちの道で生きるしかなかった。だから娘は大学まで行かせて、いろんな生き方を選択できるようにしてやりたいんです」
血吸「はぁ……」
ドンゾウ「ですが、親の心子知らずとはよく言ったものです。娘はヤクザになりたいと言って聞きません。私と同じように中学を出たらすぐにヤクザになると言っていましたが、何とか説得して高校までは行かせました。でも大学となると単に説得するだけで行かせられるわけではありません。相応の学力が必要でしょう」
血吸「たしかに……」
ドンゾウ「血吸先生以外にも6人の家庭教師に娘をお願いしたのですが、相性が合わなかったのか、初日で先生のほうから辞めてしまいましてね。そんな状況も相まって、娘は『ヤクザにしろ』とさらに強く主張するようになりました」
血吸「そ、それは困った状況ですね……」
ドンゾウ「諦めさせようと思って、『ヤクザになりたいなら、今すぐ他所の組にカチコミかけて構成員の首を20個取ってこい』と言ったら、本当に持って来ましてね。あのときは事を収めるのに骨が折れました」
血吸「首を……20個……?」
ドンゾウ「娘には間違いなくヒットマンとしての素質がある。その素質を活かすならヤクザとして生きるのがベストでしょう。しかし私はこの道で生きる厳しさを知っています。できることなら娘には、別の道に進んでもらいたいのです」
血吸「わ、私はあくまで家庭教師であり、できるのは勉強を教えることだけです……娘さん、ミキホさんがどんな道に進むかは、最終的にお父様と話し合って決めていただくことになるかと……」
ドンゾウ「娘には『今回の家庭教師が辞めてしまったらヤクザになってもいい』という条件を出しています。この条件を娘がどう解釈しているかは分かりません……死人に口なしで、血吸先生を殺してヤクザになろうとすることも考えられます」
血吸「ええっ!?」
ドンゾウ「ということで、どうかよろしくお願いします」
血吸「そそそそんなこと言われても私には」
坊主で上下白のジャージを着たチンピラ風の男が血吸の背後から近づき、左のこめかみに拳銃を突きつける。
チンピラ「いいからミキホ嬢を大学に受からせんかい!ごちゃごちゃ言ってっとマリアナ海溝に沈めんぞ!」
血吸「……はい、分かりました」
ドンゾウ「1つ上の階に娘の部屋があります。階段で上がってください」
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