シゲミんち②

シゲミ一家邸宅 地下射撃場

耳当てを付け、アサルトライフルM4カービンを構えるジン。人型の的を目掛けて発砲する。同じく耳当てをしてジンを後方から見守るハルミ。



ハルミ「実銃の反動はエアガンと比べ物にならんじゃろ?」


ジン「思ったように当たりませんね。こんなに難しいのか……」


ハルミ「だが筋は良い。ウチに泊まっとる間、アタシャが技術を叩き込んじゃる。そうすれば間違いなく、狙撃手として腕を上げられるぞ」


ジン「お願いします!でも、俺には実銃よりこっちのほうが合ってるかもしれません」



ジンは銃を射撃台の上に置き、ハルミの隣まで歩くと床に置いていたエナメルバッグを開ける。中からブラックウォーターガンを取り出した。



ジン「見た目はただの水鉄砲ですが、出力はウォーターカッター並みです。100m先まで最高出力を維持できるようカスタマイズしてあります」


ハルミ「ほう。面白い。ちょっと撃ってみなさい」



ジンは耳当てを外し、ブラックウォーターガンを構えて的に狙いを定める。引き金を3回引いた。銃口から飛び出した水の弾丸が人型の的の頭、首、胸を貫く。



ハルミ「実弾より反動が小さい分、銃火器に慣れていない者でも扱える。銃声は無く、弾丸は水。非常に合理的な得物えものじゃな。それ、どこに売っておるんじゃ?アタシャも欲しい」


ジン「非売品らしいんですよ。俺も1丁しか持ってなくて」


ハルミ「なら後でどういう構造かチェックさせとくれ。自分で作る。DIYじゃ」



−−−−−−−−−−



シゲミ一家邸宅 1階道場

60枚の畳が敷き詰められた部屋の中央に立つ、空手道着姿のキョウイチ。3mほど離れて並んで立つ、シゲミの妹・キリミとサシミ。2人とも空手道着を着ている。



サシミ「本当に2対1で良いんですか?」


キョウイチ「もちろん。手加減は不要」


キリミ「サシミぃ、高校生チャンピオン様にウチらの実力を見せてやろうぜ」



互いに礼をし、構える。キョウイチの右からキリミが、左からサシミが殴りかかった。2人の猛攻を全ていなすキョウイチ。キリミとサシミは全力で拳や蹴りを繰り出すが、1発もクリーンヒットしない。


一方でキリミとサシミもキョウイチの反撃をギリギリでかわす。双方、有効打を与えられない状況が続いた。攻撃を止めるキリミとサシミ。スパーリングを開始して5分と経っていないが、すでに息が上がっている。キョウイチは余裕の表情。



キリミ「マジかよ……強いとは思ってたけど、想像以上だ……」


サシミ「2対1でようやく互角……いや、私たちのほうが押されてるか……」


キョウイチ「キミたちはまだ10歳と聞いている。その歳ではまずあり得ない身のこなし。全国大会でもこれほどの使い手はごくわずかだった……今度ウチの空手部の練習に参加してくれないか?部員たちの良い刺激になる!」


キリミ「へっ……ウチらに参ったって言わせたら考えてやるよ」


キョウイチ「そうか。なら我が部のために、ギアを上げることにしよう。キミたちも、俺を殺すつもりで来い」



ジンは良い師匠を、キョウイチは良い練習相手を見つけ、各々の技術を磨いた。



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3日後 PM 2:00

シゲミ一家邸宅 客間

カズヒロが約束を取り付けたアイドル・広背ひろせモモとそのマネージャー・裏皮うらかわが横に並び、畳の上で正座をしている。モモは濃いグレーのワンピースで、裏皮は紺のスーツを着ている。背の低い机を挟んで向かい側に座るシゲミ、カズヒロ、サエ、トシキ。4人ともブレザー姿。



カズヒロ「まさかモモが本当に来てくれるなんて!マジ感謝ー!」


モモ「カズヒロくんは最古参ファンだからね〜!出血大サービスだよ〜!」


シゲミ「もちろん、ただサービスで来てくれたわけではない。そうですよね?」


裏皮「話が早いね。モモの力を貸すにあたって条件がある」


トシキ「条件?ボクはモモさんの曲、『愛憎のネギMAX』のCDを100枚も買ったんだ!売上に超貢献したんですから、無茶な要求はさせませんよ!」


サエ「私は新曲の『愛憎のネギMAX 2』のCD50枚買った〜。でもCDなんて聞かないから、サブスクで配信してほしかったなぁ〜」


カズヒロ「俺はこの2人にモモを布教しましたー!」


裏皮「そこまでしてくれるとは、心からお礼を言うよ。けど難しい条件を出すつもりなんて最初から無いんだ。ポコポコの母とモモが戦うところを撮影させてほしい。この前の生配信、同時接続者数が最高4万人で、無編集の録画も500万回再生されててね」


サエ「バズリまくりじゃん!」


裏皮「モモがさらに売れるチャンスだし、視聴者もポコポコの母の動向が気になっているはず。だから撮影することを条件にモモの力を貸そう」


モモ「私は無条件で協力するつもりだったけど〜、裏皮さんが〜」


裏皮「こんなビッグチャンスを逃すようじゃアイドルのマネージャーは務まらんのよ」


シゲミ「どうやって撮影するか、具体的な案はありますか?」


裏皮「モモにスマートフォンを持たせて、それで撮影する」


モモ「えっ?裏皮さんが撮影するんじゃないんですか〜?」


裏皮「前にポコポコの母と会って確信した……アイツは危険すぎる!あんなのに事務所社長の俺が近づくわけにはいかん!」


モモ「腰抜け〜!」


シゲミ「私たちとしてはそのほうがありがたい。戦えない人を連れて行くと作戦失敗のリスクが高まるから」


裏皮「ほらな。ということで、モモをよろしく!あっ、モモが死んでもスマートフォンだけは回収してきてね。動画は間違いなくバズるから」


カズヒロ「……アイドルって大変なんだな。今まで俺が見てきたのは、光が当たってるごくわずかな部分だけだったんだ……」



<シゲミんち-完->

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