湯出蟹食堂②

話しながら料理を完食した撃山うちやま、シゲミ、キョウイチ、ジン。



撃山「あと2人、ここで会う予定があるんだ。両方とも今回の件がらみだが、同席するか?」


シゲミ「いいえ、すぐに帰る。親に宿泊の許可を取りたいし、キョウイチくんもジンくんもお泊まりの準備が必要だろうから」



シゲミ、キョウイチ、ジンは撃山に「ごちそうさまです」と言い残し、湯出蟹食堂ゆでがにしょくどうから出て行った。



−−−−−−−−−−



20分後、店の入口の扉が開き、ブレザーを着た荒川あらかわ ナガンが入って来る。撃山はナガンに向かって右手を挙げた。撃山のいる席まで移動し、正面に座るナガン。



撃山「初めまして。なんていうか、田代たしろのとっつぁ……田代先生は残念だった」


ナガン「身寄りが無くて、その後のことは学校の理事長が全部対応すると言ってました。でもお葬式とかはやらないみたいです」


撃山「いろいろと訳ありな人だからな」


ナガン「……撃山さんも、田代先生と同じ殺し屋なんですよね?」


撃山「まぁな。ポコポコを仕留めるために一度だけ共闘した。その因縁で田代先生は狙われちまったようだ。ポコポコの母と名乗るヤツが俺たちを探し回ってる」


ナガン「……私、そのポコポコの母が田代先生を殺す瞬間を見ました。そのときに戦おうとしました……でも怖くて、何もできなかった……殺す価値すらないショウジョウバエって言われて……」



うつむいて涙を流すナガン。



撃山「ポコポコの母ちゃんは俺たちが必ず始末する」


ナガン「……私も一緒に戦わせてください!もう怖がりませんし、足も引っ張りません!」


撃山「それはおすすめしない。敵はプロの殺し屋でも勝てるか分からない、人間ですらない危険な存在だ」


ナガン「田代先生が死に際に、いつも使っていた刀をくれました。私に戦うための力をくれたんだと思います。だから、その気持ちに応えたいんです」


撃山「俺は田代のとっつあんのことをよく知らないが、弟子を死地に向かわせるような人だとは思わない。キミが極端な解釈をしてるだけじゃないか?」


ナガン「そうかもしれませんが、このまま黙って引き下がるなんて私にはできません!」


撃山「……命がけの戦いになるぞ?」


ナガン「そのつもりです」


撃山「……分かった。俺から仲間に伝えておく。戦力に数えていいんだな?」


ナガン「もちろん!私は田代先生の一番弟子!抜刀術の腕前は先生と互角だとお墨付きをもらってます!」


撃山「なら充分だ。ポコポコの母が殺さなかったということは、キミはターゲットではないだろう。作戦が決まるまで、できるだけ俺とは接触するな。決まったら連絡する」


ナガン「ありがとうございます!」



老婆が席にやって来て、ナガンの前にソースカツ丼、ラーメン、カレーを置く。



老婆「良かったねぇ、お嬢さん!これ食べて!全部撃山さんの奢り!戦いに臨むならいっぱい食べて体力をつけなくちゃ!」


撃山「おい姉ちゃん勝手に……」


ナガン「こ、こんなにたくさん……」


撃山「食い切れないなら俺が」


ナガン「ありがとうございます!いただきます!」



カレーからモリモリと食べ始めるナガン。老婆は笑顔を浮かべながら厨房へと戻る。



ナガン「ん?撃山さん、食べようとしてました?全部私がもらったものなんで、米粒一つたりともあげませんよ」


撃山「若者の食欲を甘く見てたぜ」



15分足らずで全てたいらげたナガン。食べ終わるころにはすっかり笑顔になり、店を後にした。



撃山「元気がないときほど食べたほうが良いんだよな。食事は大抵の悩みを解決してくれる……さて、もう1人が来るまであと1時間か」



−−−−−−−−−−



5時間後、店の扉が開いた。若い女性と土佐犬が入って来て、撃山に近づく。



キョウカ「時間を取ってくれてありがとう。殺し屋刑事デカ・撃山」


撃山「4時間も遅刻するなら一言連絡を入れてくれよ。元殺し屋キャバ嬢・キョウカ。それと愛犬の……ストロベリーっていったか?」


ストロベリー「ワン!ワン!(よろしくな、ハゲオヤジ!)」



<湯出蟹食堂-完->

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