復讐したい②

上下ピンク色のスウェット姿で自室の学習机に向かうシゲミ。机の上でノートパソコンを開き、心霊同好会のカズヒロ、サエ、トシキとオンラインミーティングをしている。画面は4分割され、それぞれの顔が映っている。



カズヒロ「22時から生配信開始だから、あと5分後だなー。始まったら俺の画面を共有するよー」


サエ「私、広背ひろせモモの配信って初めて見るんだよね〜」


カズヒロ「生配信は今日が初めてだよ。これまで録画済みの動画だけ公開してた」


トシキ「カズヒロが6年も前から広背モモのファンだったなんて知らなかったよ。そもそも広背モモがそんな前から活動してることすら初耳だし」


カズヒロ「ずっと売れてなくて、ライブに行っても俺しか観客いなかったからなー。先月ようやく動画がバズって日の目を見た感じだよ。まさか『除霊音波系アイドル』なんて肩書きになるとは思わなかったけど」


サエ「殺人鬼の幽霊を悲鳴でかき消した動画でしょ〜?なんかフェイクっぽい気もしたけどね〜」


カズヒロ「ただのフェイク動画が400万再生超えないだろー。専門知識がある人も本物だって言ってるし」


シゲミ「私も見たけど、フェイクじゃないと思う」


サエ「シゲミが言うなら間違いないか〜」


トシキ「連絡すれば、ボクたちともコラボ動画撮ってくれるかな?」


カズヒロ「ちょっと前ならできたかもしれないけど、今や登録者数30万人のビッグチャンネルになっちゃったからなー。俺らみたいな木っ端チャンネルとコラボするメリット、モモ側に無いだろー」


サエ「でもカズヒロは嬉しいんじゃない?ずっと推してたアイドルが爆売れしてるわけだし〜」


カズヒロ「いや、これが複雑なんだよなー。売れて嬉しいのは確かだけど、距離が遠くなった気がするっていうかさぁ……今まではライブ終わりに出待ちすれば、その場で2時間くらい話してくれたんだぜー」


トシキ「ただの友達じゃないか。カズヒロが連絡すればコラボしてくれるんじゃないの?」


カズヒロ「今のモモの人気を考えると、たかがファンの1人にそんな密なサービスできないだろー。事務所もガード固くするだろうし。なんか『俺だけのモモ』だったのが『みんなのモモ』になっちゃった気がして、素直に喜べないんだよなー」


シゲミ「厄介ファンの兆候が出てるね」


カズヒロ「おっ、そろそろ時間だなー。じゃあ画面共有するわー」



−−−−−−−−−−



同時刻 渋谷駅前

少し怪しげな雰囲気の黒いシャツとスカートを身にまとう広背モモ。そのモモを2mほど離れてスマートフォンで撮影しているマネージャーの裏皮うらかわクシカズ。動画はリアルタイムで配信されており、開始1分足らずで視聴者数は3000人を超えていた。


スマートフォンに向かって語りかけるモモ。



モモ「皆さんこんばんは〜!除霊音波系アイドル、広背モモで〜す!元気MAX!ネギMAXで、今日も1日がっつくね!ということで、私は今、渋谷駅前にいま〜す!」



裏皮はスマートフォンで「渋谷駅」と書かれた看板を映し、モモのほうにレンズを戻す。



モモ「今日は初の生配信で〜す!お集まりいただきありがとうございま〜す!今回はある企画を用意しています!それは……駅前にいる人に『自宅で心霊現象に悩んでいませんか?』と質問して、悩んでいる人がいたらお家に行って私が除霊しちゃうというもので〜す!」



コメント欄は「マジか!生除霊見たい!」「超楽しみ!」「耳栓用意しなきゃ!」などファンの声で溢れている。



モモ「早速、声をかけてみましょう!どなたにしようかな〜?……あっ、あそこでビラ配りしてる人にしましょう!」



モモは後ろを向いて歩き出す。背中を撮影しながら追いかける裏皮。



モモ「すみませ〜ん!今、生配信してるんですけど、ちょっとお話しさせてもらってもいいですか〜?」



裏皮は、モモが声をかけた人物のほうにスマートフォンを向ける。長い黒髪に薄汚れた白いワンピースを着た女性。ポコポコの母だ。

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