復讐したい(全3話)

復讐したい①

PM 1:20

市目鯖しめさば女子中学校校舎内

居合道部の練習を終えて廊下を歩く、眉なしスキンヘッド和服の田代たしろ。左腰に刀を帯びている。その隣を歩く袴姿の部員・荒川あらかわ ナガン。鞘に収めた刀を左手に持っている。



田代「荒川さんの上達速度は異様に早いな。抜刀術の腕前は今の拙者と同等かもしれん」


ナガン「私、神ってますよね〜!来年は私が顧問になって田代先生を指導してますよ!」


田代「そんな事態になったら拙者、切腹するだろうな。そういえば、来年キミは3年生になって引退するだろう?今のところ部員はキミ一人だから、このままだと居合道部は廃部になる」


ナガン「あー確かに」


田代「部を存続させるためにも、新しい部員が欲しくないか?」


ナガン「いらないです。私が抜刀術を極められれば部があろうがなかろうがどうでもいいので。田代先生、居合道部がなくなったら失業するかもしれないから、焦ってるんでしょ?」


田代「ぐっ……それは……」


ナガン「で、私に新入部員の勧誘をさせようとしてる、そうでしょ?中学生探偵を舐めないでください!田代先生の心の中はお見通しです!失業したくないなら自分で勧誘してください」


田代「全部見透かされてるとは、ショックだな。切腹したくなるくらいショック」


ナガン「新入部員より私、先生の刀が欲しいです!私が使ってるなまくらより間違いなく質の良い業物わざものでしょ?」


田代「この刀、『乳房ちちふさ』は人斬りの魂が宿る妖刀。生半可な精神力の者が抜き、長時間振っているとやがて人格を乗っ取られてしまう。技量こそ拙者に近い荒川さんだが、精神まではこの刀を扱える領域に達していない。もし心身ともに『乳房』を使うに値すると拙者が認めたら譲ってやろう」


ナガン「え〜、めっちゃ先になりそう。その前に田代先生が寿命で死ぬんじゃないですか?」


田代「キミねぇ、拙者は師匠なんだからもっと敬意を持って接してくれないか?」


ナガン「まぁいいや!譲ってくれるって言質は取りましたからね!よ〜し明日も練習頑張るぞ〜!ふっふ〜ん!アナタの〜股間に〜♪狙いを〜定めたら〜♪Come on!見せてよ〜純白の〜フフフ〜ン♪Yeeeah!」


田代「なんだそのダサい歌。中学生はオリジナルソングを作りがちな年齢ではあるが」


ナガン「知らないんですか?今SNSとかでめっちゃ流行ってる『愛憎あいぞうのネギMAX』の2番のサビですよ!広背ひろせモモが歌ってる」


田代「知らん。おっさんとは流行についていけない生き物なのだ」



田代が腰に帯びた乳房がさやの中で振動する。怪異が近付くと乳房に宿った魂が反応し「斬りたい」と武者震いするのだ。


2人の前方から長い黒髪に薄汚れた白いワンピースを着た女性が歩いてきた。ポコポコの母だ。


田代は1歩前に出て、ナガンを自身の背後に隠す。田代から5mほど離れた位置でポコポコの母は足を止めた。



田代「何奴なにやつ?」


ナガン「前にもこんなことありませんでしたっけ……っていうか田代先生!失礼ですよ!生徒の保護者だったらどうするんですか!?」


田代「……保護者の方か?」


ポコポコの母「保護者……そうですね、母親です。この学校に勤務している、とある先生を探しているのですが、広くて迷ってしまいました」


ナガン「ほら!謝って田代先生!」


田代「……失礼しました。お詫びと言ってはなんですが、ご案内しましょう。どの先生でしょうか?」



ポコポコの母が田代に近づく。その右腕がドロドロと液状化した。



ポコポコの母「お前だよ」



液状化した右腕が透明なドリルになり、田代の胴体を貫いた。



田代「!?」


ナガン「田代先生ぇーーー!」



ポコポコの母は水のドリルを圧縮し、元の右腕に戻す。その場に両膝を付く田代。



ポコポコの母「私の息子を葬った殺し屋の一人、田代。その傷では助かりませんよ。さて次は誰を」



ポコポコの母は右手首から先が切り落とされていることに気付く。田代の手から抜身の乳房が床に落下。続けざまに田代はうつ伏せで倒れた。



ポコポコの母「反撃してましたか。しかも、その刀は怪異をも斬る妖刀ですね。水分補給して、しばらく体を休めなければ……手傷を負ったまま殺し屋どもと戦うのはさすがにリスクが大きい」



田代に駆け寄るナガン。



ナガン「田代先生!しっかりして!」


ポコポコの母「それにしても見事な腕前ですね、田代。息子を葬っただけのことはあります。いや、これほどの殺し屋が徒党を組まなければ倒せないくらい息子は『完璧』な強さだったということですね」



ポコポコの母は田代とナガンに背を向け、ヨタヨタと歩き出す。



ナガン「待て……」



足を止めて振り返るポコポコの母。ナガンが体を震わせながら両手で刀を構えている。



ポコポコの母「アナタはターゲットではないので見逃そうと思ったのですが、やる気ですか?なら殺しますけど?」



ナガンの両目から涙が流れ、口が震える。手から刀がこぼれ落ち、その場で腰を抜かした。



ポコポコの母「アナタごときがどうにかできる相手ではありません。さっさと帰って布団にくるまりメソメソ泣いてなさい。殺す価値すらないショウジョウバエよ」



ポコポコの母はきびすを返し、ヨタヨタと歩き去った。ナガンは涙を流したまま、田代の体を仰向けにする。腹に空いた穴は人間の頭がすっぽり入るくらい大きく、湧き水のように出血していた。



ナガン「田代先生……」



田代「……せ、拙者のスマートフォンで……撃山うちやまという人に連絡を……」


ナガン「撃山……」


田代「それと……乳房をキミに……長時間使うな……だが工夫すれば……きっと使いこなせ……」



田代の口が動かなくなり、両目の瞳孔が大きく開いた。

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