お金が欲しい②

無限タクシーをバラバラに切断した3時間後、昼過ぎに胃倉区軍艦町いくらくぐんかんちょうにある大富豪の屋敷前にたどり着いたポコポコの母。


高さ10mはあろう生け垣が周りを囲み、その内側にはさらに背の高い木々が並ぶ。庭園の芝は丁寧に手入れされ、奥に中世ヨーロッパを思わせる白い壁面の巨大な屋敷がそびえる。敷地の総面積は東京ドームが丸々1つ収まるほどだ。


入口の門の高さは生け垣の倍ほど。乗り越えることは難しく、門は格子状になっており人間が通り抜けることはできない。しかし体を水に変えられるポコポコの母なら、格子の隙間をすり抜けることが可能。


難なく門を通り抜けたポコポコの母だが、肉眼では見えない赤外線センサーに引っかかったしまった。敷地内に警報ベルが鳴り響き、蜂の巣をつついたかのように黒いスーツを着た執事たちが屋敷の中から庭へと次々に現れる。その数200人。1分足らずでポコポコの母を半円状に取り囲んだ。


オールバックで銀縁メガネをかけた執事長の剣崎けんざきが数歩前に出て、ポコポコの母に近寄る。



剣崎「無断での立ち入りは困ります。我が主人あるじに御用の場合は、事前にアポイントをお取りいただけますでしょうか?アポイント無く敷地に入られますと、このような警戒体制をとらざるを得ませんので」


ポコポコの母「失礼しました。そのようなルールを知らなかったものですから」


剣崎「我が主人は在宅中ですので、用件次第では取り次ぐことも可能です。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


ポコポコの母「ポコポコの母でございます」



ざわめく執事たち。



剣崎「ポコポコの母……それは本当でしょうか?」


ポコポコの母「はい。正真正銘、母でございます。皆さんの反応を見るに、あの子のことを何かご存知なのでしょうか?」


剣崎「ポコポコは我々と協力者とで排除しました。もしアナタがポコポコにくみしているのならば、同じく排除対象となります」


ポコポコの母「与している?親子なので、そういうことになりますかね」



剣崎は右肩から斜めにかけていたベルトを引っ張り、背中に携えていたブラックウォーターガンを構え、ポコポコの母に向ける。他の執事たちも全員、ブラックウォーターガンを構えた。200個の銃口に囲まれるポコポコの母。



剣崎「ただの水鉄砲ではございません。我が主人の出資先である企業から贈与された殺傷能力のある水鉄砲です。怪異の体をも破壊します」


ポコポコの母「ああそうですか。私はお金を工面しにもらいに来ただけなのですが」


剣崎「我が主人はポコポコの関係者に資金提供などいたしません」


ポコポコの母「分かりました。では力ずくでお金をいただくことにします」


剣崎「撃て」



執事たちはポコポコの母に向けて一斉にブラックウォーターガンを放つ。200発の水の弾丸がポコポコの母に当たるが、その全てがポコポコの母の体に吸収された。



ポコポコの母「私の体は水そのもの。水鉄砲では、いくら撃っても効きませんよ。だからおとなしく金を出しやがれこのアウストラロピテクスどもが!」



ポコポコの母の両腕が液状化し、渦を巻きながらドリルのように鋭く伸びた。



−−−−−−−−−−



剣崎を含め、ポコポコの母を取り囲んでいた執事200人は全員死亡。屋敷内に待機していた残りの執事100人も全員始末したポコポコの母は、大富豪がいる書斎の前にたどり着いた。執事たちを殺しながら書斎に到着するまで20分もかかっていない。


大量の本が並ぶ部屋の最奥で椅子に座る、齢80を超えた老爺。扉を水流で板チョコのように切り裂いて入って来たポコポコの母をじっと見つめる。



ポコポコの母「初めまして、ポコポコの母です。息子をよみがえらせるための活動資金が欲しいので、有り金を全ていただけますか?」


老爺「……執事たちは皆殺しにしたのか?」


ポコポコの母「ご自分の目でお確かめください」



ポコポコの母に続くように、書斎の入口から執事たちがゾロゾロと室内に入ってくる。先頭にいるのは剣崎。全員立って歩いているが、腹部には生命活動を続けるのはまず不可能であろう大きさの風穴が空き、その顔に生気せいきは宿っていない。



老爺「何をした?」


ポコポコの母「人体の約7割は水分。水を自由に操れる怪異・水神みずがみ一族の私にとって、人間の死体はマリオネット同然なのです」


老爺「なるほど。ポコポコの母か……ポコポコが可愛く見えるほどおぞましいな」


ポコポコの母「私の息子、可愛いですよね?そう思いますよね?」


老爺「話の通じなさもヤツ以上か」


ポコポコの母「そういえば、執事さんの一人が息子を『協力者と一緒に排除した』と言っていました。その協力者とは誰でしょうか?殺しに行きたいので、教えてもらえますか?」


老爺「……金はくれてやる。だが協力者の情報は渡さん」



老爺は椅子の右側の取っ手に付いているボタンを押す。椅子が老爺を巻き込んで爆発。連鎖するように書斎の本棚の至るところで爆発が起きた。


ポコポコの母は全身を液状化させ拡張。書斎の床から天井まで水でいっぱいにする。書斎に仕込まれていた爆弾の火薬が濡れ、8割ほどが不発となった。大量の水を圧縮して元の体に戻るポコポコの母。老爺の体は爆散し、息絶えていた。



ポコポコの母「自身ごと書斎を爆破して隠滅を図ろうとしたのですね。つまり協力者の情報はこの書斎のどこかにあるということ」



ポコポコの母が操る執事たちが本棚にまとわり付き、本を取り出しては投げ捨てあさる。



ポコポコの母「働き手は300人もいますから、情報を見つけるのは時間の問題でしょう。それにしても、お金だけじゃなく奴隷とお屋敷まで手に入るなんて、私はとてもツイています!あの子ともこんな素晴らしい環境で暮らしたかった……そうすれば、もっと『完璧』に育てられたでしょうに」



<お金が欲しい-完->

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