鎧武者ハンティング④

隠匿いんとくの森の外、立ち並ぶ木々から100m離れた小高い丘の芝生の上。

うつ伏せになり、双眼鏡で森林の中を観察するジン。木々の間から、MASASHIマサシの体を切断する鎧武者よろいむしゃが見えた。


両目を双眼鏡から離し、ブラックウォーターガンを構え、鎧武者がジンのほうへ正面を向けるタイミングを待つ。



ジン「アナタの〜眉間に〜狙いを〜定めたら〜♪Please!見せてよ〜真っ赤な〜鮮血〜♪Foooh!」



辺りを見回す鎧武者。ジンのほうに正面を向けた。その瞬間、ジンは引き金を引く。銃口から射出された水はオニヤンマのように勢い良く鎧武者の顔面へ向かって飛ぶ。ジンの狙いは的確だった。しかし鎧武者が体を反転させたことで水はかぶとしろこ(首を守る部分)に当たって水滴と化す。


再度、狙いを定めるジン。



シゲミ「ワンショット・ワンキルがスナイパーの鉄則。2発目を撃つなんて野暮なことしないわよね?」



突然話しかけられ驚くジン。左隣にブラザーを着たシゲミが三角座りをしていた。



ジン「シゲミさん……マジ気付かなかった。俺、サバゲーやってるから人の気配には敏感なほうなんだけど」


シゲミ「私、プロの殺し屋だから」


ジン「……アマチュアに気取られるような鍛え方はしてないってわけね。っていうか、なんだかんだ言って来てくれたんだ」


シゲミ「キミが死なないか、念のため見に来た」


ジン「心配してくれたの?」


シゲミ「単なる暇つぶしの見物」



ジンも体を起こし、三角座りをする。



ジン「いやぁ参っちゃうよ。ターゲットは一撃で仕留められないし、同級生には力の差を見せつけられちゃうし。プライドズタズタだわ」


シゲミ「その水鉄砲、武器としては申し分ないわね。でも使い手が素人では、いくら良い得物えものでも持て余してしまう」


ジン「……今回のオフ会に参加した連中、遠距離用の武器を持ってるのにターゲットに近づくボンクラしかいないと思ってたけど、俺も甘かったな。100mも離れてちゃ威力不足だ」


シゲミ「戦国時代の鎧兜は火縄銃にも耐えられるよう頑丈に作られてるから、この距離ではまず撃ち抜けない」


ジン「なら完全にお手上げだ。刀を振り回しながら突進してくる野郎にこれ以上近寄って撃つ勇気はないからね」


シゲミ「でも、実銃じゃなく水鉄砲で100m離れた標的に当てられるキミの射撃能力はすごいと思う」


ジン「そりゃどうも。プロの殺し屋に褒めてもらえるなんて光栄だね。傷ついたプライドも早めに治りそうだよ」


シゲミ「ところで、死んじゃった人たちはどうする?後始末の業者を紹介できるけど」


ジン「そんなコネもあるのか。でも必要ないかな。明日の朝には警察が見つけるでしょ」



立ち上がるジン。



ジン「俺は帰って、この水鉄砲の有効射程距離を伸ばすカスタマイズをする。今度こそ幽霊殺しの達成感を味わえるようにね。シゲミさんは?あの鎧武者を殺すの?」


シゲミ「仕事として依頼されたわけじゃないし、私は危害を加えられていないから殺す道理がない」


ジン「ああそう。恐竜の幽霊を殺した技が見られると思ったのに、残念」



ジンは再び隠匿の森に目を遣る。何かを叫びながら太刀を振り回す鎧武者がチラリと見えた。



ジン「……今の俺じゃ討ち取れないな。もっと腕を上げて、今度は仕事として来るよ、戦国時代の亡霊さん。それにしても、今回の件で幽霊殺しの難しさを知ったよ。 トーシロが一朝一夕でできることじゃないね。けど、いつか俺もシゲミさんと肩を並べる殺し屋に」



ジンの横からシゲミは消えていた。



ジン「帰るのもプロなのか」



<鎧武者ハンティング-完->

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