オーディション(全3話)

オーディション①

末鬼玩具まつきがんぐ株式会社のオフィスビル前に停車した黒いワンボックスカー。助手席に座る女性、除霊音波系アイドル・広背ひろせモモに、運転席から男性マネージャーの裏皮うらかわクシカズが話しかける。



裏皮「老舗オモチャメーカーのCMイメージキャラクターオーディション。合格すれば金が入るだけじゃなく知名度も大幅アップだ!絶対に勝ち取って来い!」


モモ「もちろん!全力で挑みますよ〜!」


裏皮「今回CMを打つ新製品の『ブラックウォーターガン』は除霊効果があるらしい。本当かどうか知らないが、そういう触れ込みならイメージキャラクターとしてモモ、お前がうってつけなはずだ」


モモ「私と波長が合いそうですね!音波だけに!」


裏皮「よし良いぞ!今のうちに滑っておけ!お前の寒いコメントは俺がいくらでも聞いてやる!その分オーディションで本当の力を発揮しろ!」


モモ「はい!やる気が出てきたからか、体が温まってきました!高音を出す前に高温になっちゃったみたいです!」


裏皮「良い滑り具合だ!どうだ?もう滑り尽くしたか?これ以上滑らないと思うなら行ってこい!」


モモ「OK!行ってきま〜す!」



モモは手で両頬を叩くと助手席を降り、ビルの入口へと向かった。



−−−−−−−−−−



末鬼玩具CMイメージキャラクターオーディション会場。

ビル4階の会議室に応募者が1人ずつ呼ばれ、面接を受ける。会議室の外の廊下にはパイプ椅子が壁に沿って並べられ、モモ以外に30名ほどの男女が座っている。オーディションで選ばれるのは1人だけ。全員が蹴落とし合うライバルである。会話をする者は1人もいない。


1時間ほど待ち、モモの番が回ってきた。扉越しに「失礼しま〜す」と大きな声で挨拶し、会議室に入る。


室内の奥に長机が置かれ、3人の中年男性が座っている。その手前にパイプ椅子が1脚。「お座りください」と促され、椅子に座るモモ。室内は空気が重く、緊張感とはまた別の、心臓を握りしめられるような雰囲気が漂っていた。この雰囲気の要因は面接官であろう男性たち。3人とも顔色が白く、死人のように沈んだ表情をしている。


モモから見て左の男性から順に自己紹介を始めた。



液野えきの「製品企画開発部部長の液野です」


末鬼まつき「代表取締役社長の末鬼です」


水志摩みずしま「広報宣伝部部長の水志摩と申します」


モモ「鳥肉とりにくエージェンシー所属、広背モモで〜す!元気MAX!ネギMAXで、今日も1日がっつくね!ということで、よろしくお願いしま〜す!」


水志摩「そうですか。どうぞお願いします」



笑顔でハキハキと自己紹介をしたモモだが、3人の表情は沈んだまま。ノーリアクション。初っ端から思い切り滑ったモモ。心の中で裏皮に「すみません、ダメかも」と謝罪した。

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