ブラックウォーターガン(全3話)

ブラックウォーターガン①

末鬼玩具まつきがんぐ株式会社は、明治時代から水鉄砲の製造・販売のみで経営を続けてきた老舗企業。社員数は125名で、水鉄砲業界では最大手。しかしここ数年売上が急激に下がり、経営にかげりが見えてきた。5代目社長の末鬼まつきヒデミズは、会社を存続させるために日々頭を悩ませている。


現在、製品企画開発部が新しい水鉄砲を製作中。それを早期に完成させ、大ヒットさせなければ倒産する可能性さえあるだろう。歴史ある企業を自分の代で潰したくないというプライドと、この先もずっと裕福な暮らしがしたいという欲望が末鬼の心の中で渦巻いていた。その渦は負の流れを生み出し、社員たちに悪影響を与えている。ほとんどの社員が何週間も家に帰っておらず、馬車馬のように働かされているのだ。


末鬼玩具では、令和の時代と逆行するようにブラック企業化が進んでいる。



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AM 2:33

社長室でふかふかの椅子に座る末鬼のところに、「新水鉄砲の試作品ができた」と2人の男性社員、製品企画開発部の部長・液野えきのとその部下・上蒸かみじょうが駆け込んできた。


机を挟んで末鬼の前に立つ液野と上蒸。液野はアサルトライフルを模した水鉄砲を抱えている。



末鬼「ようやくできたか!今回のはどんな水鉄砲だ?説明しろ!」


液野「特徴は、銃身の横についたダイアルを回すと水の出力を変えられることです。レベル1から10まで切り替えられます」


末鬼「おーそうか!それはすごいなぁ!……なんて言うと思ったかぁ!?そんな水鉄砲どこにでもあるわ!金と時間を湯水のように使ってできたのがそんなチンケなもんかよ!」


液野「待ってください。この水鉄砲、従来のものと違ってとても画期的なのです」


上蒸「実際に社長がそのお体で体感してみてはいかがでしょう?他の水鉄砲といかに違うか、ご理解いただけると思います」


末鬼「いいだろう。今ここでやるぞ。ただし俺が納得しなければお前ら2人ともクビだ」



末鬼は椅子から立ち上がると茶色いスーツのジャケットを脱ぎ、ネズミ色のネクタイを外す。ワイシャツとアンダーシャツも脱いで上裸になった。



液野「ではいきますよ。まずはレベル1から」



液野が水鉄砲の引き金を引く。銃口から水が飛び出し、末鬼の胸の中心に当たった。



末鬼「……普通じゃないか」


液野「レベル1はこの程度です。次はレベル10にして撃ちます」



液野はダイヤルを回してレベル10に設定。末鬼に狙いを定め、引き金を引いた。飛び出した水は再び末鬼の胸の中心に当たる。そのまま皮膚、胸椎、心臓、背骨を貫いた。末鬼の背後の壁に血が飛び散る。



液野「……どうです社長?レベル10は、ウォーターカッター並みの出力になるんです。画期的でしょう?」



即死し、机の上にうつ伏せに倒れる末鬼。。



上蒸「……ついにやりましたね、液野さん。諸悪の根源を討ち取りましたよ」


液野「従業員を奴隷のように働かせ、労働基準法を守ろうとしないコイツにはもうウンザリだ」


上蒸「その上、先代から引き継いだ会社の経営も悪化。責任をとって死んでもらうのが妥当です」


液野「製品開発中に不慮の事故で死亡というていで処理しよう。ここで起きたことは内密に」


上蒸「社長の死は全社員の総意ですから。誰も口外しませんよ。それにしても液野さん、見事な射撃です。至近距離からとはいえ、一発で仕留めるとは。さすが元自衛官」


液野「一度でいいから人に向けて撃ってみたかったんだよ。実銃ではなく水鉄砲なのが少し残念だが、人を殺せる威力には相違ないからな。願いが叶ったようなものだ」


上蒸「死体処理の業者に連絡を入れたら、遅くまで残って作業してくれた開発室のメンバーにも報告しましょう」

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