崖っぷちアイドル②

ワンボックスカーの運転席に裏皮うらかわが、助手席にモモが座った。裏皮はアクセルを踏み、車を発進させる。



モモ「どこいくんですか〜?」


裏皮「『メゾン・チラミセ』ってアパートの103号室。そこで心霊映像を撮る。心霊ものの人気は根強いからな」


モモ「えっ!?そこ……せ、先輩から聞きました……いつまでも売れないと連れていかれる事故物件って」


裏皮「なんだ知ってたのか。じゃあ隠しても仕方ないな。そこは20年以上前に死刑になった猟奇殺人鬼が住んでた部屋でな。今もそいつの幽霊が出て、入居者をバラバラにしちまうんだ。『メゾン・チラミセ』を管理してる不動産屋の社長が知り合いで、俺に『ずっと空室で困ってる』って相談してきたから、心霊動画の撮影用に格安で借りたんだよ」


モモ「先輩の中に飛んじゃった人が何人かいますけど……まさか……」


裏皮「そいつらも『売れるためなら何でもします』って言うから、その部屋で心霊ロケをやったのよ。で、ロケ中に幽霊に殺されちゃってさ。その筋の人・・・・・に頼んで失踪扱いにしてもらったってわけ」


モモ「そ、そんな……」


裏皮「これ言うとショック受けるかもしれないけど、その殺人部屋を借りてから他事務所の売れる見込みがないアイドルを始末することもウチの仕事にしてるんだよね。お前も3年前に別の事務所から急にウチへ移籍になっただろ?つまりそういうこと」


モモ「完全に殺し屋じゃないですか〜!売れないならクビにすればいいだけでしょ〜!?」


裏皮「事務所の評判にも関わるし、追い込まれた人間をクビにしたら報復されるかもって不安に感じてる事務所のお偉いさんが意外と多いんだよ。だったら他事務所に移籍して、そこで偶然・・死んでもらったほうが都合がいいってわけだ」


モモ「で、でもそんなことして裏皮さんにメリットはあるんですか!?心霊動画を撮っても映ってるアイドルが死んじゃったらボツで、お金になりませんよね!?」


裏皮「他事務所のアイドルを引き受けた時点である程度の金はもらえるんだが、大した額じゃないし、お前の言うとおり演者が死んだ映像なんてまず表には出せない。でも、アイドル志望者が幽霊に惨殺されるスナップフィルムとして高く買ってくれるマニアがいるんだよ」


モモ「はぁ〜!?」


裏皮「お前の先輩たちには、今まで出した分の赤字を死んで補填してもらってたんだ。お前が3年もウチでダラダラ活動できたのは、先輩たちが命を対価に稼いだ金があったからなんだぞ」


モモ「闇すぎるぅ〜!早く止めて!降ろしてください〜!」


裏皮「落ち着いてよく考えろ。これはチャンスでもある。もしお前が殺人鬼の幽霊から逃げ延びれば、その動画は話題になること確実。心霊アイドルとして芸能界で唯一無二の立場を獲得できるだろう」


モモ「心霊アイドル……」


裏皮「次第に全国各地の心霊スポットロケに呼ばれるようになる。一発大逆転。そしてお前が売れれば俺も手を汚す必要がなくなり、全員がハッピーってわけだ」


モモ「……」


裏皮「どのみちアイドルってのは命を懸けられるヤツしか生き残れない。逃げてもいいぞ?お前の代わりはいくらでもいる。別のヤツがチャンスを掴むだけだ」


モモ「……や、やってやりますよ!でも、もし生き延びたら全力でプロデュースしてくださいね!」


裏皮「よっしゃ、その意気だ。お前の先輩たちも同じようなこと言って死んでったけど、お前は違う。そんな気がする。俺の気のせいかもしれないけれども、たぶん大丈夫」

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