崖っぷちアイドル(全4話)

崖っぷちアイドル①

芸能プロダクション『鳥肉とりにくエージェンシー』はマンションの一室を借りて運営している零細事務所であり、社長の裏皮うらかわクシカズが所属タレントのマネジメントを全て行っている。しかし現在所属しているタレントは、女性アイドルの広背ひろせモモのみで、彼女への仕事のオファーはゼロ。


この状況は今に始まったことではなく、モモは芸能界に入ってから一度もテレビなどのメディアに出演したことがない。過去に10回ライブをやったが、観客はトータルで8人。ライブの回数を下回っている。とにかく人気がないのだ。


このままでは事務所の存続すら危ういと感じた裏皮は、モモと今後の方針について考えることにした。



PM 5:35

デスクを挟んで椅子に座る裏皮とモモ。



裏皮「これまではお前の先輩たちが稼いだ貯金を切り崩してなんとかやってこれたけど、いよいよ底を尽きそうだ……マジで倒産の危機!」


モモ「私、仕事選びませんよ〜!何でもやります!歌でもバラエティでも食レポでも」


裏皮「めちゃくちゃ選んでるじゃないか。全部芸能ど真ん中の仕事だろ。そういうのは大手所属の売れっ子タレントがやるんだよ」


モモ「この前、XYZtubeに私の歌動画アップしたじゃないですか〜?『愛憎あいぞうのネギMAX』!あれの反響ってどうでした〜?」


裏皮「投稿から2ヶ月で再生回数28回、高評価1、低評価22。コメントはほぼ批判で『高音域が不快』ってものばかり。全く話題になってない」


モモ「……私、才能ないんですかね?」


裏皮「何とも言えないな。そもそもアイドルとして食っていけるのは一握り。売れるには才能だけじゃなく運も絡んでくる。で、ようやく食えるようになったと思ったら、若い子が次々出てきてポジションを奪われちまう。そんな厳しい世界だ。モモ、お前いくつだっけ?」


モモ「23です〜」


裏皮「違う。実年齢」


モモ「……32です」


裏皮「俺と4つしか違わないじゃないか。ファンが皆無だから問題になってないけど立派な詐欺だな。今すぐプロフィールの年齢は実年齢に戻しておこう」


モモ「そしたら余計に売れなくなっちゃいますよ〜」


裏皮「それも一理ある。30過ぎて売れるなら何か突出した、唯一無二の強みが必要だな」


モモ「う〜ん……思いつきませ〜ん」


裏皮「それについては俺に任せろ。お前さっき、何でもするって言ったよな?」


モモ「言いましたけど、まさか枕営業しろとか言うんじゃ」


裏皮「タレントに性的なことはさせないのが俺のポリシーだ。お前の強みを見つけるサポートをしてやる。詳しいことは移動しながら話すから、ついて来い」


裏皮とモモはマンションを出て、近くの駐車場に停めてある裏皮の黒いワンボックスカーに乗った。

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