深淵への侵入②

???「俺の名はFOXフォックス……ってご丁寧に名乗っちまった。もう完全にアイツ・・・の下僕だなこりゃ」


剣崎けんざき「FOX……突如失踪した世界最強の殺し屋。我があるじがポコポコ暗殺の戦力としてアナタを探していました。まさか幽霊になっていたとは」


FOX「ポコポコの暗殺か。そりゃ無理だな。『世界最強の殺し屋』である俺ですら返り討ちにされて、今じゃ番犬同然に扱われてるんだぜ」


剣崎「ポコポコの軍門にくだったか」


FOX「そういうこと。アイツの留守中にやって来たヤツは殺せと言われている」



剣崎は両手をズボンのポケットに突っ込み、2つのヨーヨーを取り出した。



FOX「……なるほど。そのヨーヨー、わずかに鉄の匂いがする。刃物を仕込んでるな。ちょっとは戦えるようだが、そんなオモチャじゃ俺は殺せない。一方、俺はお前を殺すのにボールペン1本あれば充分」



FOXの右手にはボールペンが逆手に握られている。その言葉はでまかせではない。「FOXはボールペン1本で武装した特殊部隊員を3人殺した」という伝説は、闇社会で広く知れ渡っており、剣崎の耳にも入っている。


剣崎は普段の何倍ものスピードで思案した。それ自体、死期が目前に迫っているからこそできたことであろう。が、この場における最善策を導き出す大きな手助けになった。


ポコポコの部屋に侵入した意義があるほどの情報はまだ何も掴めていない。もし捜索を続けるなら目の前のFOXを始末する必要がある。しかし戦えば死は確実。現在剣崎が持っているポコポコに関する情報は、まだ撃山うちやまたちに渡せていない。ならば、今は逃げることが最優先。


剣崎にゆっくりと近づくFOX。剣崎はFOXに背を向け、正面の窓ガラスに向かって2つのヨーヨーを投げ付けた。それぞれのヨーヨーから4枚の小さな刃が飛び出し、回転しながら窓に切れ込みを入れる。そして剣崎は窓にタックルし、ガラスを割って部屋から飛び降りた。


地面に落下する直前、ヨーヨーを近くの街灯目掛けて飛ばし、糸を街灯に絡ませて体が地面に衝突するのを防ぐ。割れたガラスだけが地面に当たり、粉々になった。幸いにも付近に通行人はいなかった。


窓ガラスが割れた407号室から剣崎を見下ろすFOX。



FOX「逃げたか。良い判断だ。もう少し遊びたいところだが、俺はこの部屋から出られない地縛霊……やっぱり不便だな。ポコポコが帰ってきたら、自由に動けるようにしてもらうか」



剣崎は街灯に絡みついたヨーヨーの糸を引っ張って解くと、その場から立ち去った。

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