最初の友達③
キョウカが混ぜた毒は完全な無味無臭。どんな動物でも察知できない。それは実験済み。ウーロン茶の色も変わっていない。飲む前に毒の存在に気付くことなど不可能だ。
キョウカの背中を冷や汗が伝う。ポコポコはグラスに鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅いだ。
ポコポコ「ふーん、なるほど。毒か。たぶん神経毒の類やろ?接種すると徐々に体が動かなくなりお陀仏か。おもろいやん。この毒、キョウカちゃんが作ったん?」
キョウカ「な、ななな何を言ってるのポコポコさん!毒だなんて、そそ、そんなの入れるわけないじゃん!もしかして変な臭いした?グラスがカビてたのかも」
ポコポコ「怒ってるわけちゃうで。これほど精巧な毒を作れるのが誰か知りたいんや。ぜひ友達になりたくてな。まさか、ただ遊びに来たキャバクラで、こんな凄腕の技術に触れられるなんて思わんかったわ」
グラスに口をつけ、ウーロン茶を一気飲みするポコポコ。
ポコポコ「俺には効かへんけど、普通の人間なら毒を飲んだことにすら気付かずあの世行きやろな。この毒めちゃくちゃ利用価値あるやん。で、誰が作ったん?」
キョウカ「……その質問に答える前に、私から1つ聞いていい?最近、この店の女の子が7人も失踪しているの。その子たちの共通点が、ポコポコさんとアフターに行ったこと。この事件の原因はアナタ?」
ポコポコ「せやで。友達になれんくてな。みーんな俺の腹ん中や」
ポコポコは自分の腹を右手で円を描くようになでる。毒を察知した嗅覚。毒と分かっていながら飲み干す胆力。その2つは、「ポコポコと名乗るこの男はただの人間ではない」とキョウカが信じ込むのに十分な根拠となった。キャストを食べたという話も本当なのだろう。
キョウカ「……私もアナタに食べられるってこと?」
ポコポコ「1つって言うたやろ?その質問は2つ目や。次は俺の質問に答えくれるか?」
キョウカ「……毒を作ったのは私。自然界のあらゆる毒を調合して、無味無臭、体内で分解され痕跡が残らない毒を作った」
ポコポコ「さよか。ならキョウカちゃんは食わへん。俺の初めての友達として、その技術を活かしてもらうわ。ここでキャバ嬢やるのもええけど、キミ、本気出せば世界獲れるで」
キョウカ「……」
答えに悩むキョウカを見て、ポコポコは思い出したかのようにズボンの尻ポケットに手を入れた。そしてテーブルの上に札束を置く。
ポコポコ「人間の動機は大体が金やろ?今日この店で使おう思っとった500万。もし俺と友達になってくれたら、毎月500万キョウカちゃんに渡したるわ」
キョウカ「500……」
キョウカがキャバクラで働いているのも、殺し屋業をやっているのも全て金のため。仮にポコポコが店で500万円を使っても、キョウカの給料に上乗せされるのはこの10%未満。現金を目の前にして生唾を飲み込むキョウカ。
ポコポコ「足りひん?じゃあ、倍でどうや?」
尻ポケットからもう1つ札束を取り出し、テーブルに置くポコポコ。1000万円。ポコポコと友達になれば、これが毎月キョウカに直接支払われる。
キョウカ「……友達って、具体的に何をすればいいの?」
ポコポコ「俺の指示に従ってくれたらええ。あとたまに遊び相手になってくれや」
キョウカ「……分かった」
ポコポコ「ほんなら今から友達な。店長ーっ!店長おるーっ!?」
大声を出すポコポコ。その声を聞き、小太りの店長が席の側にやってきて床に片膝をついた。
店長「ご用でしょうか?もしかして、何か失礼がございましたか?」
ポコポコ「キョウカちゃん、今この場で店辞めるから。よろしゅう」
店長「えっ!?いや、そんな勝手な」
ポコポコの頭が7倍くらいに膨れ上がり、大きな口で店長を頭から丸呑みにした。その様子を見ていた他の席のキャストや客が騒ぎ出す。店長をボリボリと咀嚼し、飲み込むポコポコ。頭は元の大きさに戻った。
ポコポコ「キョウカちゃんも、もっとたくさん友達欲しいやろ?友達の輪を広げに行くで」
キョウカは黙ってポコポコを見つめたまま、席から立ち上がった。
<初めての友達-完->
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