最初の友達②

キョウカはテーブルに置かれたグラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぎ、水で割る。いま毒を混ぜるのは早い。客が酔っ払って、トイレに行ったタイミングがベストだ。


ポコポコはグラスに口をつけ流と、お酒を一気飲みした。



ポコポコ「プッハァッ!やっぱ人生、酒飲まなやってられんわな」


キョウカ「ポコポコさんって何歳?若そうに見えるけど」


ポコポコ「いくつやと思う?」


キョウカ「え〜、26歳くらい?」


ポコポコ「いやそんな若ないよ。えっと今年が2024年やから……3600歳くらいか。端数は覚えてへん」


キョウカ「マジで若くない!老人でもない!神仏の領域じゃん!」


ポコポコ「嘘ちゃうよ。俺、この店来てから嘘ついたこと1回もあらへん」



ポコポコの顔や手など、肌が見える部分はすでに真っ赤になっている。



キョウカ「もしかしてポコポコさん、お酒弱い?顔、スパイダーマンみたいに赤いけど」


ポコポコ「せやねん。酒好きなんやけど、体に合ってないんよ。だから後はウーロン茶にしてくれるか?」


キョウカ「何でキャバクラ来てんのッ!?酒飲めないのにッ!」


ポコポコ「俺、とにかく友達が欲しいねん。でも、社会に出ると友達作る機会ってほぼないやろ?そもそも人と話すことすら減るし」


キョウカ「たしかに、学校のクラスとか部活みたいなグループってなくなるもんね。職場の人とかは?」


ポコポコ「俺、無職」


キョウカ「無職がキャバクラ来んなッ!いや語弊があるなッ!お金があるなら来てもいいけど無理すんなッ!」


ポコポコ「キャバクラってお金払えば人と話せるやん?俺にとって友達を作れる数少ない場や」


キョウカ「虚しいッ!寂しさを紛らわせるため、酒飲めないのにキャバクラに通う虚しい男の吐露ッ!」


ポコポコ「キャバ嬢たちは仕事で友達のふりしてくれてるなんて百も承知や……でもええねん。少しの間だけ友達っぽい会話ができれば」


キョウカ「深刻ッ!哀れッ!こっちも仕事で接してるけど、本当の友達になってあげてもいいかもという気持ちが湧いてきたッ!」


ポコポコ「あーなんか、めまいする……気持ち悪いわ……ちょっとトイレ行かせてくれる?」



ポコポコは口を押さえながら立ち上がると、トイレに向かって駆け出した。想像以上の酒の弱さだが、今がチャンスだと確信したキョウカ。黒服が持ってきたウーロン茶に粉末状の毒薬を入れ、マドラーでかき回す。10分後、トイレからフラフラとポコポコが戻ってきた。



ポコポコ「あーマジ今日調子悪い日やわ。Bad Dayや」


キョウカ「大丈夫?ウーロン茶用意したよ」



ソファに座ったポコポコの目の前にグラスを動かすキョウカ。



ポコポコ「……これ、ほんまにウーロン茶?」


キョウカ「そうだよ!」


ポコポコ「とか言って、酒入っとるんとちゃうん?ウーロンハイやろ?」


キョウカ「まさかー」



入っているのはテメーを殺すための毒だよ、と心の中でほくそ笑むキョウカ。このポコポコという男、話だけしている分には悪い客ではない。しかしこの男がキャストの失踪に関わっている可能性は高く、殺すことで一連の事件が解決するならばそれに越したことはない。一刻も早くウーロン茶を飲ませることにキョウカは集中した。



ポコポコ「本当に酒入ってへんか?ほらよくあるやん、ファミレスでトイレ行ってるヤツの水に七味唐辛子入れたりとか。そんなノリで入れてんちゃうん?」


キョウカ「SNSで炎上する高校生じゃないんだから!大丈夫!信じて飲んで!」



そして死ね!と心の中で罵倒を付け足すキョウカ。



ポコポコ「ほんまー?じゃあ信じるでぇ。酒入ってたら怒るからなぁ?」



ポコポコはグラスを手に取り、淵に口をつけ、傾ける。ウーロン茶が徐々にポコポコの唇に接近。もう少しで口の中に入るという寸前、ポコポコは唇からグラスを離した。



ポコポコ「やっぱ何か入ってるやん。ただのウーロン茶ちゃうなこれ。キョウカちゃん、何入れたん?」

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