小学生殺し屋(全4話)

小学生殺し屋①

葱吐露ねぎとろ小学校に通う児童たちの間で、あるウワサが流れていた。「先月から4年2組の担任になった新人男性教師・血吸 魔悪ちすい まわるは吸血鬼ではないか」というウワサだ。


犬歯が下アゴに届くくらい発達していて、仕事中もタキシードの上から黒いマントを羽織り、体育の授業で屋外に出るときは日光を避けるため日傘差してる血吸。よく知られている吸血鬼のイメージと血吸の身なりや行動が酷似していることがウワサの原因だ。


4年2組の児童は特に、担任の先生が吸血鬼かもしれないという疑念で毎日戦々恐々としている。教室はいつも緊張感に満ちており、その空気に耐えられず欠席する子の数も増えていた。



PM 2:45

この日の授業が終わり「ようやく解放された」と言わんばかりに、そそくさと教室を出ていく児童たち。血吸は教卓に手をつき「さようなら」「気をつけて帰ってね」と笑顔で声をかけながら見送っている。


そんな血吸の様子を、最後列の席に座ったままじっと見つめる女児・サシミ。所詮はウワサだと思いつつも、自分の担任が本当に吸血鬼かどうか気になっているのだ。


赤いランドセルを背負った少女がサシミの席に近づき、真横で足を止めた。クラスメイトのヒカリ。2人は学校以外でもよく遊んでいる。親友と言って良い関係だ。



ヒカリ「いつ殺すの・・・・・?血吸先生を」


サシミ「私はお姉ちゃん・・・・・みたいな快楽殺人鬼じゃないから、依頼が無い限り殺さないよ。それに、血吸先生って普通に良い人だし」


ヒカリ「吸血鬼疑惑がなければ超当たりの先生だよね。いつも明るくて元気だし、授業も分かりやすいし、怒鳴ることもないし、たまに言うジョークも面白いし。空気が張り詰め過ぎてて笑えないけど」


サシミ「あと男性教師にありがちな幼女好きっぽさが全く無いのも良いよね。性別に関係なく、純粋に子どもたちと向き合ってくれてる感じ」


ヒカリ「ちょっと偏見が混じってる気がするけど、一理あるかもね。じゃあ殺さないってこと?」


サシミ「今のところは。逆に依頼があれば話は別」



サシミは椅子から立ち上がり、机の上に置いていたランドセルを背負った。



−−−−−−−−−−



PM 4:30

自室で勉強机に向かい、算数ドリルの問題を解いているサシミ。すぐ右隣にあるカーテンの閉まった窓が、外からコンコンと叩かれた。サシミがカーテンを開くと、1羽の白いハトが羽ばたきながら滞空し、くちばしで窓をつついている。


窓を開けてハトを室内に招き入れるサシミ。ハトの首にはヒモのついた小さな筒がかかっている。筒を開けると中にはクルクルと巻かれた、レシートくらいの小さな紙が1枚入っていた。


ハトを窓の外へと飛ばし、紙を広げるサシミ。伝書鳩を使った古い方法で暗殺の依頼をしてくるのは、今の時代PTAくらい。サシミは紙に書かれた文字を見つめた。



“今夜零時までに血吸 魔悪を暗殺し、その首を持参せよ。報酬、七百万円。”

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