小学生殺し屋②

PM 10:35

最後の一人になるまで職員室に残っていた血吸ちすい。室内の電気を消し、薄暗い廊下に出た。


血吸は日が昇る前、人々が寝静まっている時間帯に出勤し、日が沈んでから誰にも見られないように帰宅する。理由はマントで空を飛んで自宅と学校を行き来しているから。電車は光源が多すぎて、吸血鬼の血吸からすると乗れないわけではないが居心地が悪い。車を買おうにも、教師になったばかりの血吸の収入では足りない。徒歩で通勤できる距離でもない。そのため太陽が出ておらず、人目に付かない時間に空を飛んで移動するしかないのだ。


血吸は廊下を歩いて職員用の玄関へと向かう。直後、背後から無数の何か・・が空気を割いて急接近するが聞こえ、その場で屈んだ。血吸の頭上を、十数本の長い針が飛び超え、廊下の奥の壁に突き刺さる。


血吸は立ち上がりながら後ろを向く。廊下の15mほど先に教え子の一人であるサシミが立っていた。



血吸「サシミさん、こんな時間にどうしたんです?何か忘れ物でもしましたか?」


サシミ「死角から迫る針のわずかな音を察知してかわす。常人じゃまずできない芸当ね。血吸先生、やっぱり吸血鬼でしょ?」


血吸「……ああ、子どもたちが言っているウワサですね。まさか、本当に信じてるんですか?」


サシミ「さっきの動きで確信した。私、先生みたいな怪異専門の殺し屋なの」


血吸「……殺し屋に狙われる心当たりがないんだけどなぁ。誰の血も吸わず、赤ワインで我慢してきた。普通の教師として仕事をしてきた」


サシミ「怪異の存在自体を認められない人たちがいるの。先生が何もしてなくても、その人たちの指示があれば殺さなきゃならない」


血吸「……そうですか……これまで何回も転職してきて、ようやく教師という天職に巡り会えたと思っていました。が、その仕事が出来なくなる上に殺されるというのなら、たとえ教え子といえど戦わねばなりませんね」



右手でマントを広げる血吸。マントの中から数匹のコウモリが出現し、サシミに向かって飛来する。サシミは両手の指の隙間に挟んだ針を投げ、的確にコウモリを射抜く。針が刺さったコウモリは即死し、全て床に落下した。



血吸「サシミさんが殺し屋というのも本当のようだ。相当鍛えられた殺しの技術。しかし、普通の武器じゃ私は殺せませんよ」


サシミ「分かってる。だから私の針にはニンニクエキスを吹きかけておいた。ニンニクは吸血鬼の弱点だよね?」



サシミはジーンズのポケットから円筒形の白いスプレーを取り出す。表情を歪める血吸。



血吸「私は吸血鬼であることを隠していました……それは謝ります。しかし教師として何か問題がありましたか?不満がありましたか?吸血鬼というだけで、殺されなければならないのでしょうか?」


サシミ「……ごめんなさい。先生はとても素晴らしい理想的な教師。でも私たち殺し屋は、依頼人の指示を無視するわけにはいかないの」


血吸「何を言っても無駄ですか……なら思い知るが良い。本当の吸血鬼の恐ろしさを!」



廊下の気温が一気に下がり、サシミの吐く息が白くなる。人間では到底放てぬほどの強い殺気を血吸が廊下に充満させたのだ。再び針を指の隙間に挟み、攻撃に備えるサシミ。血吸は身を低くくし、飛びかかろうとする。その寸前、サシミの後方から顔の左横を1本のスローイングナイフが高速で飛び抜け、血吸の額に突き刺さった。



???「楽しそーじゃんサシミ。アタシも混ぜろよ」

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