サルとゴリラ②

深夜

テントの中で目を覚ました 猿井さるい。すぐ隣では父が大きないびきを立てながら寝ている。相当疲れたのだろう。猿井が動いても起きる気配が全くない。


増羅ましらは眠る前、「2時間ほど仮眠をとったら朝まで外で見張りをする」と言っていた。テントの中にその姿はない。


尿意を感じた猿井はテントを出て、草木を割って進み、30mほど離れた場所で放尿を始める。尿が全て出切った直後、ズドンという音が遠くから聞こえた。続けて2回同じ音が鳴る。銃声だ。増羅が何かを撃ったのだと、幼い猿井にも察しがついた。


父がテントから出てくる様子はない。猿井は音が聞こえた方向へと一人進む。その先、倒木に身を隠しながら銃の弾を交換している増羅がいた。倒木の向こう側には大きなオスのゴリラが1頭と、小さな赤ん坊のゴリラが2頭倒れている。ピクリとも動かない。死んでいるのだろう。



猿井「増羅さん……何してるの……?」



猿井に背後から声をかけられ、ゆっくりと振り向く増羅。



増羅「お坊ちゃん、起こしてしまったかな?いやね、見張りをしてたらゴリラが襲いかかってきたもんで。もう心配はないよ。おじさんが撃ち殺しておいたから」


猿井「……父さんが、ゴリラのほうから人間に近寄って来ることはないって……」


増羅「何事にも例外はある。お父様の理論も100%正確ではないんだよ」


猿井「本当?本当にゴリラが襲ってきたの?」


増羅「そう言ってるでしょう。さぁ、テントに戻って。明日も長い距離を歩くから、よく休んでおかないと」


猿井「嘘だ……アナタのほうがゴリラを襲ったんだ……木に隠れて狙い撃ちした……違う?」


増羅「……木に隠れたのはゴリラの攻撃から身を守るためだよ」


猿井「じゃあ、なんで赤ちゃんのゴリラまで死んでるの……?赤ちゃんのゴリラが人間を襲うことなんてないよね?赤ちゃんを撃って、子どもを守ろうとした親のゴリラも撃ったんじゃないの?」


増羅「そんなに怪しまないでくれよなぁ、お坊ちゃん」


猿井「ゴリラは絶滅危惧種だ!どんな理由があっても殺すことは許されない!」


増羅「……はぁ、殺すのはゴリラだけにしようと思ってたんだがな。人間を殺すと後始末が面倒なんだ」


猿井「ボクはお前の顔も名前も知ってる!ボクを殺さなきゃ、お前は指名手配されて一生追われることになるぞ!」



増羅は猿井に向けて発砲。弾丸は猿井の左耳に当たった。猿井は増羅に背を向けて走り出す。テントに戻って、その目で見たことを父に報告するために。



増羅「ショウジョウバエ同然のガキが。お望みなら、テメェの親父と一緒にゴリラどもと同じ場所に送ってやる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る