サルとゴリラ(全3話)
サルとゴリラ①
26年前、9歳の少年・
一方で、ゴリラたちとしては自分の生活を覗かれることになるのだから、いい迷惑だろう。警戒して襲いかかるかもしれない。万が一の事態に備え、猿井父子の旅にはハンター・
猿井「増羅さん、ほっぺた、なんで怪我したの?」
密林の道中、先頭を歩く増羅に背後から質問する猿井。ある程度年をとった大人なら相手に配慮して傷のことは見て見ぬふりをするだろう。だが幼い猿井は良くも悪くも純粋だ。しかも学者の息子。気になることは追求したくなる。
歩みを止めて振り返り、猿井を見下ろす増羅。
増羅「6年前、ベンガルトラに襲われたんだ。上からのしかかられて、引っかかれた。もちろんしっかり始末したけどね。お坊ちゃん、興味があるのかい?服の下はもっとひどいぞ。見るか?」
猿井「いやいいよ……」
増羅は前方へ向き直り、再び歩き始める。猿井は数歩後ろに下がり、最後尾にいる父の右隣に並んだ。
猿井「父さん、ゴリラ、近くにいるかな?」
父「うーん、まだ遠いだろうな。ゴリラはボスを筆頭に十数頭の群れで行動する。それだけの数で動けば、足跡や糞のような痕跡が必ず残るはずだ。それがまだ見つからんのでな」
猿井「バナナを持って歩けば近づいて来る?」
父「ゴリラはそこまでマヌケじゃないし、見かけによらずとても警戒心が強くて繊細だ。向こうから近づいて来ることはない。それに、こちらから近づいて怖がらせてもいけないよ」
猿井「どうしても間近でゴリラが見たいんだ!あのピンと張った胸筋に触りたい!」
父「お前のゴリラ好きは筋金入りだなぁ。もはや子ゴリラと言っても差し支えない。だが野性のゴリラに近づくのは危険なこと。殴られれば人間なんてひとたまりもない。気づいたらあの世だろうな」
猿井「好きなのに近寄れない、か。まるで恋みだいだ」
父「はっはっはっ!ケツの青い9歳児が恋を語るか!でもまぁ、ゴリラに愛情や敬意を持って接するというのは大切なことだ。父さんたち学者もそれを忘れないようにしている。お前も同じようにすれば、ゴリラと出会えるはずだ」
猿井「愛情と敬意……うん、分かった」
増羅が歩みを止める。
増羅「そろそろ日が落ちてくる。ここで野営しましょう」
猿井と父は背負っているリュックサックを地面に下ろし、キャンプの準備に取り掛かった。
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